「どこにも行ってほしくない」
スネイプの口から出た願いに、リリーは目を見開き固まった。それは彼女の脳内にあった計画すべてが吹っ飛んでしまうほどの衝撃だった。
「あ、でも……スプラウト教授に頼まれた仕事がありますし、今日は丸一日授業があって……」
返事が遅れれば遅れるほど、スネイプの眉間は深く沈んでいった。リリーがオロオロと最善策を模索しながらもやんわり断れば、彼の口角は拗ねたように下がる。
愛する人の生まれたこの日。お互い生きて日々を過ごしていることに感謝して、飛びっきり良い日にしようと決意した。いつもの朝食を私の手作りにして、私室で食べられるように準備もした。おはようのついでに何か本人からの要望はないかと訪ねてみれば、想像していない言葉が返ってきたものだから、正直戸惑う。
「座れ」
「はい」
まだベッドで身体を起こしただけにも関わらず、セブルスは威厳たっぷりな教授の声で私に言った。ギシリとスプリングを軋ませ向かい合える位置に右手をつくと、彼の瞳がギラリと光る。それに気付いた瞬間、彼に左手を引き寄せられていた。
「わ、何っ!?」
大した距離ではないはずが、セブルスが後ろに寝転んだせいでグンと大きく身体が傾く。
「もう……地上では今頃カエルが降ってますよ」
「魔法薬の材料に使える」
彼の両脇に手をついて、まるで私が押し倒したかのような体勢。逃がさない、と腰に手を回され、もう片方は垂れた私の髪を掬う。するりと耳を撫でていく彼の指がくすぐったくて、愛しい。
「我々は昨日、共に寝た」
セブルスが言った。
「だというのに、起きてみれば私一人。隣には温もりすら残っていなかった」
「寂しかったんですか?」
「君とのすべてが夢だったのかと思った」
「怖かったんですね」
彼がしてくれたように、私も黒髪へ指を通してベッドへと落とす。そして露になった彼へ愛を込めてキスを一つ。ふ、と和らぐ目の前の表情に堪らなくなって、もう一度。
「今日は大盤振る舞いだな」
「あなたの瞳からのリクエストですよ」
クツクツと意地悪に笑うセブルスへ抗議を込めて、コツンと額同士を当てた。少し当たる彼の鼻の感触が、私は好き。
腰へ回されていた腕の力が強まった。
「今日という日に、私の願いを聞いてくれると言うのなら、リリー、君は
ただいるだけでいい」
Special Thanks
you
(2019.1.9)