仮に魔法とやらが存在したとして、
私に何をしてくれるというのだろう。失ったものが戻る奇跡を、魔法は実現させてくれるというのだろうか。イギリスで突如起こった災害に巻き込まれ、大切な人がいってしまった私に。一体何を。
彼のために作った花束を、他の数多の花束に並べて置いた。目を閉じてみても、彼の笑顔は私の悲しみに塗り潰される。
私のような人はたくさんいた。それぞれに思いを抱えて、花束を捧げていく。ぬいぐるみや手紙も、遠い場所で受け取ってくれていることを願って。
そんな中、背後で砂利をにじる音が一際大きく聞こえた。場所を譲ろうと立ち上がり、振り返る。奇妙な服装の男はどこを見ても真っ黒で、昔絵本で見た死神そっくりだった。
私を彼の元まで連れていってくれるだろうか。
「死ぬにはまだ早い」
死神の声は低く、彼が話せば周りすべてが静まった。手を伸ばせば他の人に触れることだってできるのに、私たちだけが世界の隙間に入り込んでしまったよう。
「私の手足となれ」
なんて一方的な人なのだろう。高圧的な立ち姿からも、ここに集まる人々の思いを汲む気など更々ないように思える。
「失礼、ミスター。詐欺か勧誘ならここに標的はいないわ」
「私はプリンスだ、ミス・エバンズ」
「どうして私の名を……」
「彼、を知っていると言ったら、信じるか?」
真っ直ぐに見つめたままの彼の瞳からは、何も汲み取らせてくれない。ただ静かな時間が流れていった。
「彼を知っていようとなかろうと、私たちの間には何もない。放っておいて」
「私は救えるものすべてを救おうとしている」
強欲な人。すべて、だなんて。そこに彼は含まれなかった。私は私と彼だけが良ければ何だっていい世界で過ごしてきたのに。それでも彼を失ったのに。
「彼の後を追うくらいならばその身を私に預けろ。死んでいる暇などない」
「どうして私なの?」
「……君の喪失感は私にも覚えがある」
「答えになっていないわ」
それでも、彼の瞳は初めて揺らいだ。
仮に魔法とやらが存在したとして、この出会いはそれに値するだろうか。イエスの返事はこの身どころか、
むしろこの魔王に魂を売ることになるに違いないのに。
Special Thanks
you
(2019.1.7)