「進路希望
というのは、将来君の進む方向を見つめ直し、どうありたいかを考えるものだ。ドラゴンになりたいとか楽して金を儲けたいなどの馬鹿げた話で、我輩の貴重な時間を無駄にさせるな」
スネイプの尖った声が石造りの壁に響く。彼の研究室で対面して座る女子生徒は眉をピクリとも動かさなかった。そしてまるで彼がおかしいかのように首を傾げてみせる。
「私はいたって真面目です、スネイプ先生」
「ならば最悪だな。ミス・エバンズ、君に考え直す時間を与える」
エバンズと呼ばれた生徒が今度は首を横に振る。
「いいえ、先生。もう十分考えました。私はホグワーツ魔法魔術学校の校長になりたい。それが一筋縄でいかないことは理解しています。足場作りとして一先ず魔法省への就職も考えていますし、コネも必要だろうとスリザリンで上手く渡ってきたつもりです」
スネイプの手元には魔法省を望むに相応しい彼女の成績が書き記されていた。努力せずには得られないもの。だからといって、その努力の先にあるものは子供のお遊びで語られるのが常なもの。死喰い人になりたいと打ち明けられた方がまだ掛ける言葉がある。
「私が死ぬまでずっとダンブルドア先生が校長をなさるおつもりなら、代替案はあります」
「何だ?」
「嫁に入ることです。ですが私は理想が高いので、校長職より困難だと思います。まずスリザリンでないと気が合わないでしょう。でも血縁者の面倒事には巻き込まれたくないので天涯孤独な人がいいです。容姿に拘りはありませんが、私と並んでしっくりくるのは細身で私より背の高い人だと思います。大切なのは、私とは別に愛する人がいること。一番は重苦しくて嫌いなんです。二番目か、愛されていなくてもいい。お互いを利用しあったただの共同生活も魅力的です」
まともな仕事先の話はないのか、と喉から出かかった言葉を呑み込めば、彼女からは次から次へと理想が飛び出してくる。スネイプは口を挟むのも面倒だと聞き流した。彼女の無茶な注文に当て嵌まる人物などいるはずがない、と。しかし理想像が狭まってくるにつれ、その影は見知った形を取っていく。
「先生はそんな方をご存知ですか?いたら紹介してください。あぁでも校長職とは違って、
これは、あくまでも希望です」
Special Thanks
you
(2019.1.7)