『立場』
という生き物は、変幻自在の魔法がかけられている。時間によって変わったり、意図的に変えたり、運命の悪戯というものが影響していたり。
私の場合はどうやら運命の悪戯。
「新しく闇の魔術に対する防衛術の担当として、リリー・エバンズ先生をお迎えすることになった」
9月1日の歓迎会に先駆けて、職員室で行われたダンブルドアによる紹介。リリーが微笑むと、あちらこちらから儀礼的な拍手が届いた。しかしただ一人、セブルス・スネイプの両手だけは脇に固定されたまま。
解散が告げられると、リリーは一人職員室を出た。引き止めたそうな優しい視線たちを振りきって、人気のない廊下を足早に行く。何度か適当な階段を上がり、角を曲がり、絵画もない廊下でピタリと止まった。
「さて、言いたいことだらけでしょうね」
一呼吸置いてリリーが振り返る。その視線の先で、角から大きく一歩、黒衣が踏み出した。コツンコツン、と一際大きな靴音を響かせてスネイプが迫り来る様を、彼女はただ微笑んで眺めていた。人一人分の距離を空け急停止した彼の眉間は深々と沈む。今にも噛みつかんばかりの形相をしていた。
「どういうつもりだ!」
スネイプの第一声は怒りに満ち溢れていた。
「どうもこうも、仕事を変えた。それだけよ」
「こんな話は聞いていない!」
「言ってないもの。言う必要もない。私たちはただ、何度か同じ夜を過ごしただけの仲でしょう?」
淡々と返すリリーに釣られ、スネイプも次第に落ち着きを取り戻し始めた。大きく息を吐き出して、痛い頭に片手を当てる。
「まさかダンブルドアが君に声をかけるとは」
「腕には自信があるって言ったの、嘘じゃないのよ」
「何故、この職に?前の仕事も嫌いではないと言っていただろう」
「それは惰性的に続けていても苦じゃないってだけ。それに、そろそろ自分を変えたかったの。新しく始めたいこともできたし」
「始めたいこと?」
スネイプは何が飛び出すか分からない話題に腕を組み、むっすりと口角を下げた。しかし聞くだけは聞いてやる、とリリーを促す。
「あなたとの関係。私はきっとこの学校にいる誰よりも深く、或いは誰も知らないあなたの一面を見ているわけだけど、それを脇へ退けてもう一度やり直したいの」
「目的は何だ?」
「そんなの、あなたをもっと知りたくなっちゃったからに決まってるじゃない、セブルス……いえ、ここではもう少し畏まった方が良さそうね、スネイプ教授?これからの私たちは、
立場が変わったから関係も変わるわよね?」
原文 立場が変わったので関係も変わりますよね?
Special Thanks
you
(2019.1.2)