浮気など、する人間ではないと思っていた。
何年も何年も懲りずに私に言い寄って、何度も何度も拒否したにも関わらず、めげずに私の元へ通いつめていた。リリーは私しか見えていないのだと思い込んでいた。
なんと愚かな。
「ただ、事実があるのみ」
殺風景な見慣れぬ小屋へ引き込んでも、彼女はにこやかに私に従っていた。だと言うのに、今はその目へ怯えを滲ませる。それでも、今この瞬間、ここにいるのは私とリリーだけ。
彼女のために用意した場所で、彼女のために用意したソファに座らせる。彼女は足元に跪く私を見つめていた。その瞳が逸れる先すべてに、私は狂わされてしまう。
「彼は在学中にお世話になってて、それで――」
「二人きりで会っていたことには変わりない」
「話を聞いてください、スネイプ先生!」
「聞いているとも。記憶力も良い方だ。確かあの男のことはファーストネームで呼んでいたな。なら、私は?君が知らないはずがない」
「……セブルス」
「さよう」
彼女の口から発せられた単語に心が震える。自然と上がった口角を自覚して、左手を口元へ寄せた。そして右手では杖を出す。彼女の目が見開かれる様を、真正面から捉えていた。一体何を想像したのか。覗くことは出来ても、そのような無粋な真似はしたくない。
上げた杖腕をぐるりと回す。私と彼女を囲むように青い炎が現れ、大きく揺らめいた。熱も感じず、燃え広がることもない不思議なそれを、彼女が視線で問いかける。
「君はいつでもここを出ていける。心底私を愛しているのなら、この炎は君に害をなさない。簡単だ」
「こんな、こんな真似は止めてください!こんなことしなくても、私が好きなのは先生だけです!」
膝横に置かれていた彼女の手がソファを握りしめる。その動作ひとつにも、私の心は掻き乱された。
「人の心は移り変わる」
「ならばいっそのこと、私から彼を消してください。オブリビエイト、先生なら出来るでしょう……?」
「なるほど、その手があったな」
「なら……!」
「いや、消すのは私の記憶だ。私の中から君を消す。これで私は振り回されることも苦しむこともなくなる。君も、自由だ」
さあ、
少しくらい狼狽えて見せろ。
原文 浮気なんて、する人じゃないと思ってた
原文 ちょっとぐらい狼狽えて見せてよ
Special Thanks
虹様
(2019.1.2)