ほろ酔い気分だった


ほろ酔い気分だった。

カウンターで一人グラスを傾けて、いずれは来る黒衣を待ちぼうけるにはちょうどいい。近くの会話を盗み聞いてみたり物思いに耽っていれば、時間は案外早く過ぎていく。


「悪い、遅れた」


隣へ滑り込んだ男は急いだ素振りなんて少しも見せない。流石に多少眉尻は下がっているけどその程度。かわいくない。


「気にしてない。いつものことだから」

「先に呑んでいたのか」

「これは三杯目」


残っていた中身を一気に呷った。次を頼むべく息を吸い、セブルスに制される。そのくせ彼はちゃっかりと自分の分を注文していた。


「呑みすぎるな」

「もうセブルスが来たから大丈夫。あと5分遅れてたら、奥の若い男の子二人組に声をかけられてただろうけど。三人で過ごす夜も興味深いから悩んじゃう」

「君のような暴れ馬は彼らでは乗りこなせんだろう」

「遅れた日くらい殊勝になれない?まったく、暴れ馬はどっちなんだか」


大袈裟に息を吐き出して、呆れを示してみせる。彼は用意されたグラスを引き寄せると、その瞳を左右に大きく動かした。


「リリー」

「何?」


セブルスがグッと身を寄せた。触れるだけのキス。薄暗いとはいえ、こんな場所で珍しい。やってしまって後悔したのか、伏し目がちな彼は、それでも分かるほどに奧の席を気にしている。


「キスしたときくらい、私だけを見たらどう?」


彼の頬に手を添えて、じっと目を合わせた。


「……見ているだろう」

「セブルス、瞳が綺麗だってよく言われない?黒曜石みたいだ、とか」


目を逸らし、彼はお酒を呑み干した。


「ない。場所を変えるぞ」

「はいはい。お好きな場所へ連れてって」


いつもはさっさと歩き出してしまう彼が今日は立ち止まって腕を差し出す。私がそこに手をかけ腕を組むと、彼が僅かばかり勝ち誇るように胸を張った気がした。

かわいい人。

いつのまにか貴方に酔っていた。

Special Thanks
you
(2018.12.28)


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