一言で言えば、犬猿の仲だった。
私が猿で、犬が彼。スニベリーなんて呼び名は好きじゃなかった。私の宿敵はそんなものが似合う男ではないからだ。犬だとは言ったが尻尾を巻いて逃げ出すわけじゃない。
「久しぶりね、セブルス・スネイプ」
そんな彼が私の職場に現れたのは、生き残った男の子フィーバーが下火になり始めた頃。
「君でも魔法省に入れたとはな、リリー・エバンズ」
「名前を覚えててくれたみたいで嬉しいわ」
「君ですら覚えているのに?」
「何もかもが相変わらずだこと。それで?あなたがここへ何の用?」
『魔法薬管理・申請部』と書かれた看板を指差して、退屈な仕事場に欠伸を落とす。
「『君に会いに』とでも言えば働くのか?」
彼はカバンから取り出した書類をヒラヒラと揺らし、デスクへと置いた。一番上のページには『新薬申請資料』と書かれている。正しく私の仕事だ。
「まだ魔法薬にお熱だったのね。オタクくんに似合う仕事なんてあった?」
「文句の付けようもないものがひとつある」
「大手の研究所?それとも金持ちのお抱え?」
「ホグワーツ魔法魔術学校魔法薬学教授。それが今の私の肩書きだ」
「うそっ!」
気怠げに資料へ通していた目を数年ぶりの男へと向けた。ニヤリと上がる口角は見覚えしかない。
「今や地下牢は我輩のもの」
「私のことは受け入れなかったくせに、あの校長!マーリンのパンツ!」
「君は教育者に不向きだと見抜かれたのだろうな」
「スネイプが就けるなら誰だって教育者向きだわ!」
「キャンキャンとよく吠える。誰にも躾てもらえなかったのか?」
「そっちは飴玉に尻尾振りすぎなのよ」
「我輩を嫌うのは勝手だが、仕事に私情を挟むことは許さん」
「馬鹿にしないで。適当に働いてるわけじゃないの」
代わりの書類を書き上げ大袈裟な動作で判を押す。無言で差し出せばスネイプは鼻をくっつけるほど書類に近付いて不備がないか粗探しをしていた。
「問題ないな」
「申請が通るかは追ってふくろう便を送ります」
事務的な文言を述べれば、彼の背筋がグッと伸びる。受け取った書類をカバンへ入れると彼はこちらを見下ろした。
「残念だが我輩は優秀な魔法薬師だ。また来ることになるだろう」
「お手並み拝見ね。いつでも待ってるわ」
この退屈な仕事も、彼が来るなら面白くなりそうだ。
彼の皮肉を聞きながらそう思った。
Special Thanks
you
(2018.11.13)