幸せになって。
それだけが彼へ願ったこと。けれどそれだけがとてつもなく難しい。僅かな望みを賭けて乗り込んだ校長室も無駄に終わってしまった。
『アルバス、お願い。セブルスを解放してください』
『彼は常に自由じゃ。彼自身が今を選択しておる』
『自由?大義が彼を縛っている間は、彼は幸せを求めてくれないんです!彼だって、あなたが守りたいすべての一部ではないのですか?』
『彼は大義に縛られるような男ではない。わしとは違う』
『ええ、誰もあなたとは同じになれない。我々は手足にすぎません』
長い議論に意味はない。アルバスが一言、セブルスに「君は自由だ」と言ってくれさえすれば、何かが変わるかもしれないのに。
どうしても顔を見たくなり駆け込んだ地下牢で、彼はいつも通り大鍋との逢瀬を楽しんでいた。眉を釣り上げ今にも減点を言い渡しそうな表情が、私に気づいてふわりと溶ける。
「危うく私の杖腕が吹き飛ぶところだった。ノックはしたまえ、エバンズ先生」
下げかけた小皿を持ち直し、彼が白い粉末を少しずつ大鍋へ加えていった。
「セブルスって、調合中はとてもいい顔をするわよね」
「リリーといるときよりもか?」
セブルスは視線を大鍋へと向けたまま、フッと笑う。隣に並んでも慎重なその手付きが止まることはない。
「いいえ、私をからかうときが一番楽しそう」
「それでは私が人でなしのようだろう」
至極心外だとアクションをとってみせ、彼は空の小皿を机上へ戻した。迷わず次のすり鉢に手を伸ばし、ゴリゴリとその手でコガネムシを擂り潰す。
動きを制限してしまわない限界まで近づいて、すり鉢を支える左手の小指をスルリと撫でた。
「どうした?」
手を止め覗き込んでくる彼の瞳から逃げる。黒衣の肩に頭を寄せて撫でていた指に自分の人差し指を絡めた。
決して手放してしまわないように。
「私、決めたわ。今ここで誓う。例え何があっても、あなたのことはこの私が
幸せにする」
Special Thanks
you
(2018.12.27)