「ハロウィンなんてものがあるおかげで
クリスマスだってオオゴトになっちゃうんですよ。そう思いませんか、スネイプ教授?」
「君の理論は理解しかねるが、祝い事を疎ましいと感じることには同意する」
クリスマス・ディナーの隅っこで、スネイプ教授と二人、気配を消しながら七面鳥をつつく。エッグノッグやワインで盛り上がり笑いの絶えないテーブルから逃れるタイミングを、今か今かと待ち望んでいた。
「そろそろ部屋に戻りたいです」
「我輩が先に抜ける」
「良いじゃありませんか、二人一緒でも」
「君がいると注目を浴びてしまうだろう。引き止められては敵わん」
「誰も教授を引き止めやしませんよ」
これには返す言葉がなかったようで、彼は黙ってグラスのギリーウォーターを呷った。
「大勢いる分、ハロウィンの方がマシかもしれませんね。生徒とテーブルを囲まずに済みますし」
「ほう、お優しいエバンズ先生は生徒と食事を摂りたくないと?」
ヒソヒソとリリーが顔を寄せた拍子に頭の三角帽子が傾いた。スネイプはそれを押し戻して片眉を上げる。ジロリとテーブルに並ぶ生徒を睨みつけるが、視線に気付く者はいなかった。
「ただ向かい側に人が座っている状態に慣れないだけです。緊張しちゃって」
「緊張するような相手ではないだろう」
「確かにそうなんですけどね」
グラスが空になればまた湧いてくる。終わらない補充のループについついお酒がすすんでしまった。
「いつも通りの日がいいです」
「全くだ」
翌日、自室で目が覚めた。当たり前ではある。しかしどれだけ記憶を遡ってみても、大広間から帰った記憶がないのだ。暖かなベッドの中で、サッと血の気が引いたのを感じた。
「やらかした……きっと何かをやらかした!」
職員室までの廊下は誰一人として出会わなかった。障害物のない道のりを全速力で駆け、目的の扉を開く。バタン、と城中に響きそうな音に中にいた人物が振り返った。
「マクゴナガル教授!」
「何です?騒々しい」
「あの……私、昨日……」
「少々楽しみすぎたようですが、クリスマスくらいは私もとやかく言いませんよ」
「楽しみ、すぎた……?」
私が、クリスマスを?あんなに帰りたかったのに?
「……まぁ、覚えていなくとも仕方ないでしょう。詳細はセブルスから教えて貰ってはどうです?」
マクゴナガル教授が振り返った先で、気配を消していた黒い塊が身動ぎをした。職員室を去る彼女を見送り、不機嫌の塊がのそりとその身体を起こす。
「見れば分かる」
彼の手からヒラリと四角い紙切れがこちらへ移動した。捕まえて正体を確認した途端、消えていたはずの酔いが蘇る。写真で繰り広げられるやり取りに、クラクラと現実を受け入れない頭が揺れた。
「嘘でしょ……」
「すべて現実だ。被害者もここにいる。その被害者は周りから君を押し付けられ、酔いの残らない薬を煎じて飲ませ、更には部屋まで君を送り届けてやった」
視覚から、聴覚から、信じがたい情報が雪崩れ込む。四角い枠の中で動く私は隣にいる男の腕に抱きつき必死に何かを訴えていた。立ち上がり逃れようとする彼をイヤイヤと首を振って引き止める。
「大変ご迷惑をお掛けしました!」
あぁ、なんてこと!いつも通りを望んでいたのに。
こんなはずではなかった!
Special Thanks
you
(2018.12.24)