こんな寒い日には、
火蟹のそばで暖を取るに限る。ヒッポグリフに抱きつくのも良いかもしれない。サラマンダーも最高だろう。しかし私は私室で事務仕事に追われている。
「もう限界だー!」
「煩い。廊下にまで聞こえたぞ」
ノック代わりに声をかけられ、扉が開く。そこには厚手のマントにマフラーを何重にも巻いた黒い塊がいた。
「見てるだけで寒そうですね。中へどうぞ?」
「結構だ。ケトルバーンが呼んでいるぞ。我輩をふくろう代わりに使うなどと――」
「とうとう孵るんだ!」
「――は?」
リリーは飽き飽きしていた書類を投げ出して、インクが飛ぶのも構わず立ち上がった。扉に立ち塞がるスネイプが怪訝に眉を潜め睨み付けていようと彼女には関係ない。
「スネイプ教授も行きましょう!」
そう言って無防備なスネイプの手をとった。ビクリと手袋ごと彼の手が跳ねる。リリーは半ば押し退けるように部屋を出て、手を引いた。呆気にとられた様子の彼の身体はグラリと簡単に彼女へ傾く。
「我輩を巻き込むな!」
しかし咄嗟に出た右足で踏ん張って、彼はリリーの手を振りほどいた。
「卵の殻は魔法薬の材料でしょう?あとで取りに来るくらいなら、今一緒に来た方が早いですよ。私からのクリスマスプレゼントです!」
「この場合、送り主は魔法生物だろう。尤も、無断でくすねるわけだが」
再び掴んだ腕が振りほどかれることはなかった。リリーの走るスピードに合わせ、スネイプの靴音が廊下に反響する。
「いつ卵を生んでも必ずクリスマスに孵るんです。素晴らしいですよね!だから名前に――」
「うんちくは聞き飽きた。それより寒くないのか?」
「――あっ!」
リリーが声を上げた。しかしその足取りが緩むことはない。
「馬鹿なら風邪は引かずに過ごしていただきたいですな。マダムが休暇中の今、薬を煎じるのは我輩だ」
マントを羽織ってきていないことに何故気付かなかったのだろう。気付いてしまったが最後、瞬く間に身体が冷えていくのを感じた。
「ならマフラーを分けてください!」
「な、止めろ!引っ張るな!戻れば良いだろう!」
「その間に孵っちゃったらどうするんです!こうなったらこのまま行きます!卵のある場所は暖かいので問題ありません!」
「アクシオ(来い)!――これでいいだろう!君のような大馬鹿者でも流石に
無理をすると風邪をひく!」
Special Thanks
you
(2018.12.24)