些細なことがきっかけだった。
言った言わないの堂々巡りに発展するのは分かりきっていて、それでもお互い口が止まらなかった。喧嘩なんてよくあること。喧嘩にも満たない小さな嫌みの応酬なら毎日で、声を荒げるのは週に一度くらい。顔を背けて部屋を飛び出すのはこれで三度目。
たっぷり街をさ迷い歩いて、寄り道を二つした。一つはちょっぴり贅沢なディナー。セブルスの嫌がる内装の店へと入り、お一人様。舌鼓を打ったあとは、彼を残して出た家へと帰る。
家は暗いままだった。本や研究に熱中しすぎたセブルスが手元の灯りだけで過ごすのはいつものこと。使われた形跡のない台所へ、二つ目の寄り道で手に入れた箱を置いた。
深呼吸をひとつ。
彼の私室の扉を叩いた。しかし返事はない。いる気配すらしなかった。首を傾げながら、来た道を戻る。台所へ続く扉へと手をかけたとき、中からコトリと何かを動かす音がした。
「セブルス……?」
十中八九そうだろうとは思いながらも怖々と扉を開く。
「帰ってたんだな」
「セブルスこそ、出掛けてたのね」
答える代わりに彼が手に持っていた荷物を引き上げた。そこにあったのは少し前に私が台所へと置き去りにしたものと同じ箱。
「あなたも?」
「そのようだな」
「ごめんね」の代わりに、その気持ちを込めたケーキを用意する。それが私たちにとって仲直りの合図だった。
「店まで同じだなんて」
「この店は君のお気に入りだろう」
「ここのならセブルスも食べるからよ」
つまりはお互いがお互いを思ってのこと。
「紅茶が入った。食べるだろう?」
廊下にも聞こえていた音は紅茶を準備する音だった。セブルスは独り手にダイニングテーブルへやって来たティーポットを掴むと、カップへ中身を移していく。忽ち落ち着く香りが広がっていった。
「もちろん。セブルスが選んだケーキは何?」
いそいそと簡易な包装の箱を開けた。そこに並んだ二つを見て、私はプッと吹き出してしまう。瞬時に眉間へシワを寄せたセブルスへ、自分の購入したケーキを披露した。
「同じではないか……」
呆れたように、やれやれと彼がため息をついた。それでも彼の口角は緩やかに上がっている。
ここには同じケーキが二つずつ。私の記憶違いでなければ以前にも二度、同じ状況があった。
「セブルス、どのくらい食べる?」
「一切れあればしばらくケーキは結構だ。残り三つは君が食べたまえ」
「あら、私を太らせる気?」
「リリーこそ、私を胸焼けさせる気か?」
あぁ、また。私たちは本当に、
救いようのない馬鹿ね。
Special Thanks
PUNI様
(2018.12.14)