『失楽園』
そう書かれた本を手に取ろうとして、後ろから伸びてきた手に奪われた。
「これだろう?済んだならそこを退いてもらえないか」
「あ、ごめんね、スネイプくん」
何故名前を知っているのかと言いたげな目をして、それでも彼は無駄を省いて私の存在を消した。言い損ねたお礼をボソボソと呟いて、彼の望む通りに私はその場を去った。
彼は悪名高いスリザリン。私は目立たないハッフルパフ。接点は何もない。精々教室の端と端で同じ授業を受けるくらい。それでも強かに生きる彼は私にとって憧れだった。この気持ちを恋と呼ぶ人もいるかもしれない。
卒業を目前に控えた雨の日。大広間へと向かう階段で、一人歩く彼を見つけた。マルシベールやエイブリーを連れない彼はとても静かで心地好い雰囲気を纏う。
憧憬が蛇の形で私を唆した。
「スネイプくん!」
「あー……」
「ハッフルパフのリリー・エバンズ」
「寮は見れば分かる」
足を止めてくれた彼が振り返る。段差で彼の顔がいつも以上に遠かった。それでも松明でチカチカと瞳が輝いて、とても綺麗なのが分かる。
「少し話しても良いかな?」
「もう話してるだろう」
「あ、うん、そうだね……」
無意識に擦り合わせていた指先を引き離し、深く息を吸った。
「私も仲間に入れてほしいの!」
「仲間?」
「あの、だから……死喰い人に、なるんでしょう?私もそこに加えてほしいの」
彼は両目をいつもの倍ほどにして、薄く開いた唇から息だけを吐き出した。階段に靴音と笑い声が木霊する。
「来い!」
腕を引かれ、薄暗い地下廊下をあちらこちらへ曲がりながら奥へと進んだ。来たことのない場所。それが私の未来に重なるようで、ふるりと震える。
「自分が何を言っているのか理解しているのか?」
「してる」
「どうだかな。ハッフルパフが賛同できるとは思えない」
「できる!」
「生半可な気持ちで来る場所じゃない!噂では、闇の帝王は目を見るだけで心を読むらしい。実際にそういう魔法もある。君は僕の目を見てこちらの思想に賛同していると言えるか?」
「言える」とは言えなかった。それでも、私は真っ直ぐ彼の黒い瞳を見つめていた。逸らされることなく彼の瞳もこちらを見つめ返す。
ただ、
あなたとならどこまでも共に。
原文 あなたとならどこまで共に
Special Thanks
you
(2018.12.12)