「そんな簡単に恋には落ちません!
だからね、セブルスがエバンズを好きなのは誇っていいことだし、何も恥ずかしくなんてないんだから!寮の壁が何よ!」
クィディッチの試合で人気のなくなった談話室。そこでリリーとセブルスが頭をつき合わせてもう30分が経っていた。
「さっさと告白しちゃえばいいのに」
「なっ!そんなことできるわけがないだろう!」
セブルスが赤い顔を更に赤く染めて首を振る。ブンブンと音がしそうな勢いにリリーが苦笑して、乱れた一束の黒髪を定位置へと戻してやった。
「全く脈がない訳じゃないと思うけどな」
「ほ、本当に?」
「本当に」
まるでリリー本人にオーケーを貰えたかのようにはにかむセブルスの頬をリリーがつねった。
「でも早くしないと他の人に取られちゃうかもしれないよ。ほら、あのグリフィンドールのモジャモジャくん」
「ポッター」
その名を口にするのも腹立たしい、とセブルスの眉間が深く谷を作る。
「そう、ポッター。今競技場でスニッチを追いかけてるみたいに、いつもエバンズを追いかけ回してる」
「でもリリーはあいつが嫌いだ」
永遠の確信と優越感に染まる声に、リリーがため息をついた。立てた人差し指をセブルスの鉤鼻へ寄せ、チッチッチッと舌を鳴らしながら左右へ揺らす。
「甘いですな、セブルスくん。もしポッターがエバンズの嫌うことすべてをしなくなったら?愛の証明に変わると誓ったら?彼女の心だってグラグラのグラですよ」
「――っ!だ、だがあいつがそうそう変われるわけがない!」
「かもね。でも変われちゃうのが恋であり愛なんだなぁ」
嫌な想像でもしてしまったのか、顔色を変えわなわなと震える彼に、リリーの手がポンと乗る。
「うちのパパはママといるために相当頑張ったらしいんだよね。二人の話を聞いてると、恋ってすごいんだなって思うよ」
「君の両親はそんな感じなんだな」
そう呟いたセブルスは、先ほどとは違う陰りを見せた。リリーは少し考えてから、肩へ乗せていた手でゆっくりと撫でる。
「良かったら、次の休暇はうちへ来る?」
「いや、それは――」
「あ!うちへ来ちゃったらエバンズとは会えなくなっちゃうね!それはダメかー!」
「な、そっ、リリー!」
暗さを吹き飛ばす笑みで、リリーが大袈裟にガッカリして見せた。
しばらくそうして笑っていると、次第に寮へ人が戻り始める。険悪な寮生の話題はどれもクィディッチばかり。
「あーあ、グリフィンドールのシーカーくんが大活躍しちゃったみたいだね」
「……行くところができた」
「惚れちゃってないか確認しに行くの?」
「う、うるさい!リリーこそ、たまにぼんやりしているのは僕と同じ理由だろう?僕とばかり話してないでそいつのところにでも行けばいい!」
言い捨てて、セブルスは足早に出口へと向かった。その姿が扉の奥へ消えても、リリーはぼんやりと影を追う。
「ずっとそうしてるよ、バカセブルス。見てくれてるんだか、見えてないんだか」
気がついたらこんなにも夢中だった。
Special Thanks
you
(2018.12.10)