初めてだった


初めてだった。

私が決闘で負けたのは。

同世代の誰よりも秀でている自信があったし、実際そうだった。傲るまいと常に研磨し鋭く尖ったこの腕を、騎士団の一員として振るおうと決めた。その中に、セブルスはいた。


『達者なのは口だけか。腑抜けに囲まれ強者を気取るのは止めておけ』


床に倒れた私へ手を差し出したセブルスは思い出しても嫌な顔。人を小馬鹿にし優越感に浸るその手を私は払い除けた。でも今思えば、私はこの時恋に落ちたのだろう。

そんな彼が、騎士団から抜けた。

とても円満とは言えない終わりだった。騎士団から最高の指導者を奪い去るなんて。

でも――


「リーマスは色眼鏡で見てる!杖を交えれば相手がどんな人物かよく理解できるはず!セブルスは理由もなくダンブルドアを殺したりしない!」

「あぁそうだろうとも!例のあの人へのこれ以上ない手土産だ!彼はこの時をずっと待ってたんだ!」


仮の騎士団本部として提供されたウィーズリー家で終わりの見えない議論を重ねる。言葉にはしなくとも、周りにいるアーサーやトンクス、ムーディも、みんなが同じ思いなのだとヒシヒシ伝わってきた。


「ダンブルドアは彼を信じてた!」

「だがそのダンブルドアが殺されたんだ!目撃者もいる!ハリーが嘘をついていると言うつもりじゃないだろうね?」

「そうじゃない!そうじゃないけど……」

「リーマス、リリー、ちょっと落ち着こう?確かなのはダンブルドアもスネイプもここにはいないってことだよ」


仲裁を買って出たトンクスに、私は頷いた。

リーマスの肩へ乗る彼女の手へ彼が重ねる。ようやく収まるところへ収まった二人に胸がぎゅうっと締め付けられた。


「頭を冷やしてくる」




向かったのは、ロンドンのど真ん中。マグルも多い街の一角にある、ボロボロの建物。奥に進むにつれ欠けたコンクリート壁の増えるその場所は、私にとって大切な場所。

いや、私たちにとっての、大切な場所。


「セブルス!もう来てくれないんだとばかり!」

「君こそ来ないものだと。――或いは、別の用事か」


忙しい日々でも会えるように、といつも決めていた約束の時間。その時間に、彼はいた。


「無事を確かめたい、声を聞きたい、触れたい。それ以外に用ってある?」

「ないな。君が無事で良かった」

「そこらの死喰い人に遅れを取る私じゃないわ」


目を細め僅かに口角を上げたセブルスの胸へと飛び込んだ。いつもよりも強く抱きしめれば、背に回る彼の腕にも力がこもる。首元に顔を埋めてくる珍しい彼の仕草に、私はポンポンとあやすように彼の背を叩いた。震える息が何度か続き、セブルスがフッと力を抜いた。


「私の罪は増えるばかりだ」

「私はセブルスを信じてる。だからここへも来た」

「ここへ来るのはこれが最後だ。もう君とも――」


続きは聞きたくなかった。塞ぐように唇を押し当てて、深く口づける。驚きで受け入れるだけのセブルスが次第に応えてくれて、私はようやく唇を解放した。


「立場が何?罪が何?それもすべて引っくるめてセブルスでしょう?」

「リリー……」

「すべてを話してくれなくて良い。私は私の思うようにあなたを信じるし、止めもする」

「決闘で私に敵わなかった君が?」

「今なら色仕掛けが通じるもの」


「馬鹿なことを」と笑う彼の穏やかな表情に、押し潰されそうな私の緊張がふわりと溶けた。そして彼は瞬きひとつで空気を引き締める。


「私が過去にけりをつけるまで、待っていてくれるか?」


これほどまで不安に揺れる漆黒を、私は見たことがなかった。触れる身体を離したくない。それは二人とも同じ。けれど私は静かに首を横に動かした。


「待つだけなんて腑抜けのすること。言ったでしょう?私は私の思うようにするって」

「そうだったな。君の長所だ」


指先を絡め合い、両手を繋ぐ。唇で彼のかさついた唇を感じた。

平穏な世の中ではないけれど、セブルスと出会って私は多くの幸せをもらった。この世界はダンブルドアの残した思いたちが多くの幸せをもたらしてくれるに違いない。

そうすれば、セブルス、

次はきっとあなたに。

Special Thanks
you
(2018.11.12)


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