あの日も今日みたいな雨だった。
春の合間に降る爽やかな雨で、しっとりとした空気の心地好い日。校長として忙しい合間を縫ってイースター休暇に帰省した彼を、私は重大ニュースと共に迎えた。
「セブルス、良いニュースがあるの」
「何だ?」
「あなたはパパになる」
キラキラと輝くあなたの瞳。私の顔とまだ膨らんでもいないお腹を交互に見る様子がとても可愛くて、クスクスと笑ってしまった。
「……子供が?」
「ええ、そうよ」
抱きしめる腕はいつもより優しい。お腹が気になって仕方ないのか不器用に空いた空間を埋めるように、私から寄り添った。
「ありがとう」
「大変なのはこれからよ」
「すまない」
「情勢もあなたの立場も理解してる。私の――私たちのことは心配しないで」
「愛してる、リリー」
「私も愛してるわ、セブルス」
「もし私の身に何かあったとしても、この気持ちに偽りはないと誓う」
「滅多なこと言わないで。この子は私たちが二人で育てるの」
背に回る腕の力が僅かに強まった。宥めるように彼の背を撫でれば、甘えるように彼の頭が肩へ乗る。
「子供に嫉妬しちゃダメよ?」
「ならば君に似た女の子が良い。私に似ては駄目だ」
またクスクスと笑ってしまった私へセブルスから抗議のキスが降る。とても幸せな時間。愛に満ちた時間だった。
突然セブルスが子供を欲しがるなんておかしいとは思っていた。それでも二人のこれからを思えばあり得る選択で、私に拒否する理由もない。
私はセブルスが人生を賭けた日を、彼の用意した隠れ家で過ごしていた。何も知らず、ひっそりと籠って。お腹の子供と、セブルスの無事をただひたすらに願っていた。
でもそれこそが、彼の計画。
無鉄砲に駆け付けかねない私を足止めするため。
「こら、セブ!またパパの杖を持ち出して!11歳になったらちゃんと渡してあげるって言ったでしょう!」
生まれた子供はセブルスに似た男の子だった。やんちゃが多いのは、私譲りかも知れない。
あの日の謝罪に心当たりがありすぎて、あの一言では足りないとどこで愚痴れば彼に届いてくれるのだろう。それでも私が鬱ぎ込まずに今を生きていられるのは、この子がいるから。とうとう「ママと結婚する」なんて言い出したこの子を見ていれば、セブルスを遠い昔の記憶になんてできない。次になんて目も向かない。
これもきっと、彼の計画。
ほんと、ズルい人。
Special Thanks
PUNI様
(2018.12.1)