誰もが知っている。
魔法薬学教授のセブルス・スネイプは陰湿で嫌みで皮肉屋でスリザリン贔屓で生徒のことが嫌い。何故教師を続けているのかは誰にも分からない。ダンブルドアが何か作らせているのだとか、他に誰もやりたがらないからだとか、噂なら掃いて捨てるほど存在する。
でもそれは生徒から見た彼の姿。
同僚で恋人となれば、鉄壁の黒いローブも緩む。深い眉間も下がりがちな口角も、そこから飛び出す言葉も緩む。
「教授、そろそろ休憩を入れてはどうです?」
「君の菓子があるのなら」
午後の受け持ちがない水曜日。自室で仕事に励む彼へ、小腹の空く時間に声をかけるのが習慣。彼は採点の手を止めることなく羊皮紙に話しかけていた。
「残念ですが今日は屋敷しもべ妖精のタルトです。私だって暇じゃありませんよ」
言いながら、事務机とは別のテーブルへセッティングする。一足先にソファで寛いでいると、羽根ペンを投げ出したセブルスが隣に腰かけた。そのまま身を寄せる彼のキスを頬へ受ける。「ありがとう」と言葉にしたがらない彼なりの感謝の印。
「ベリーか」
「お好きでしょう?」
「君が作ったものならな」
彼は意外と甘いものを好む。甘酸っぱいよりも甘いもの。紅茶やコーヒーにも砂糖を入れるし、長期休暇中は自室の机へ菓子を常備する。生徒の作る「スネイプ先生像」とは程遠い。
絶えず湯気の昇る紅茶で口を湿らして、セブルスがフォークを手に取った。控え目な一口が彼へと消える。
「これは本当に屋敷しもべの作ったものか?」
「あら、何故?」
「何度も食べた。味の違いくらい分かる。屋敷しもべは万人受けする味を作るが、君は私の好みに合うものを作ってくれる」
「隠し味は愛情なんです」
フッと柔らかく笑う彼がまた一切れを口へ運ぶ。
「甘いな」
この時間にあるすべては、
私だけの秘密。
Special Thanks
PUNI様
(2018.12.1)