差出人のないクリスマスプレゼントが届くようになったのはいつからだったか


差出人のないクリスマスプレゼントが届くようになったのはいつからだったか。

そろそろ届くに違いないプレゼントへ思いを馳せて、今朝、パパからプレゼントされた素敵なワンピースへと袖を通す。ママから貰ったぬいぐるみは私の代わりにベッドへ寝かせ、叔母さんからのは窓際へ。


「あっ!来た!」


こちらへ向かう鳥が一羽、何やら荷物をぶら下げているのが見えた。いつもは遥か遠くのどこかから飛んできているそのフクロウが、今年はすぐそばから来ている気がする。ただ少し、寄り道をしただけかもしれないけれど。

ちょっとした違和感を放り出し、私は急いで窓を開け、外の寒さに身体を震わせた。


「メリークリスマス、ふくろうさん!」


空の郵便屋が運んでくるプレゼントは毎年二つ。けれど私の分は一つだけ。もう片方はプリベッド通り四番地階段下の物置宛とカードに書かれていて、そこには友達のハリーが住んでいる。

サンタはダーズリー家が意地悪だと知っているに違いない。私は喜んでサンタの手伝いをして、贈り物をダーズリー家に見つからないようこっそりとハリーへ運ぶのだ。


「ママ、パパ、ハリーに会ってくる!」

「気を付けてね」

「長居をしてはいけないよ」


街が賑やかになる直前の、少し早い時間を走る。右手にはハリー宛の小包を、左手には私宛の花束を。それは私のミドルネームと同じ百合の花。毎年新しい品種が一輪ずつ加わって、今ではすっかり束となった。

角を曲がればあと少し。わくわくが胸一杯に沸き上がって百合の香りを吸い込んだ。

その時。

曲がってすぐの角、そこで佇む影に気付くのが遅れて、私は奇妙な黒服の男の人に突進してしまった。


「ごめんなさい!」


よろけたのは私だけ。男の人から言葉は何も返ってこなかった。怒られなかったことにホッと息を溢し、黒い服についた黄色い花粉にヒッと息を呑む。


「あの、服……」

「……あぁ、気にする必要はない」


花粉を払おうとした伸ばした手は、使い込まれた大人の手に遮られてしまった。その細長い指が今度は私を指して、私はまたハッと息を吸い込む。


「パパに貰ったワンピースなのに!」


百合の花粉は私の服にも痕を残してしまっていた。


「いい方法がある」


低いその声に引きずられるようにして、男の人が私に手を伸ばす。パパとママが知ったらすごく怒るに違いないと頭では分かっていたのに、私はその手を受け入れた。

短すぎる爪をくっつけた長い指がワンピースの汚れた部分を覆い隠す。二秒も数えないうちに手は離れ、その下からはきれいな白いワンピースが現れた。


「すごい!どうやってやるの?」

「そのうち教わる」

「教わる?学校で?でも――」

「君らのように特別な者だけが通う学校がある」


特別、と言うその言葉に私は心当たりがあった。私も、ハリーも、きっと特別。他の友達にはできないことが私たちにはできてしまう。


「私のことを知ってるの?」

「……君に似た赤毛や瞳を持つ、特別な人を知っている」

「髪や瞳の色で決まるの?」

「いや、そういうわけでは……」


男の人は髪も瞳も黒い。私とは全く違う。彼はこれ以上話したくないような表情で、私から離れていった。


「あ、そうだ!見て!」


私は百合の花束を胸の前へと持ち上げた。目を閉じてやりたいことを思い描く。強く、強く、『咲け』と。花束に混ざる一輪の蕾へ向けて。


「……今年はピンクね!かわいい――あれ?」


何度首を左右に回しても、そこには私一人がいるだけだった。夢でも見ていたような不思議な心地。けれど私は特別で、きっとあの人も特別だから、彼は何か不思議なことをしたに違いない。

色とりどりの百合に新しく加わったピンクを眺め、ふふふ、と声に出して笑った。


「メリークリスマス、ハリー!お待たせ!」

「メリークリスマス、リリー!あれ?今年の蕾は?」

「もう咲かせちゃったの。ピンクだった!」


ハリーへのプレゼントを渡して、私は花束を胸に抱える。鼻から身体いっぱいに百合を満たし、改めて本数を数えてみた。白、黄、斑――そして今年のピンク。次はどんな色を咲かせてくれるのだろう。


「早くクリスマスにならないかな?」

「なってるよ、今!」


年々増えてゆくそれを私は心待ちにしている。

Special Thanks
ツカサ様
(2019.12.25)


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