もしもの話


もしもの話。

人差し指を立て、私はセブルスにそう切り出した。


「もしも、私とセブルスの守護霊が同じだったらどうする?」

「そんな偶然は『ありえない』と言えるほどの確率だ。心次第では同じ形へ変わるときもあるって噂だが、僕たちは友人だろう?」

「そうだね。同じだったら面白いかなって思っただけ」

「そんなの、面白くもなんともない。じゃあ、僕からやるぞ」




どれだけの幸福を思い描いても、精々銀色の盾が浮かぶだけ。先生のいない二人だけの特訓は何度も何度も繰り返されて、その度に私の幸福は濃くなっていく。




「ねぇ、セブルス!リリーがとうとう守護霊を出した!牝鹿!彼女はマグルだもの、きっと初めて自分が魔女だと知ったときのことを思い浮かべたのよ」


ある日、待ち合わせたいつもの空き教室へ入るなり、私はセブルスへ知らせを告げた。


「魔女だと知ったときの?」

「たぶんね。私たちの世界へ仲間入りするなんて、マグルからすれば夢のような話なんでしょ?」

「ああ、たぶん、そうだと思う。少なくともリリーにとっては」


セブルスは淡くはにかんで、瞳と揃いの色をした彼の杖を強く握り直した。黒板に描いた的代わりの吸魂鬼へ杖先を向け、彼が大きく息を吸う。大袈裟に肩が上下する様を私は少し離れた場所で見つめていた。


「エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」


黒から銀が吹き出して、もやもやと宙に留まり蠢く。黒板とセブルスの間で盾をこなす銀色は、次第に四本の足を生やした。


「牝鹿……」


分かっていたのに、私の口からは受け入れがたい現実が零れ落ちる。当の術者は珍しい間抜け面で想いの形と見つめ合っていた。瞬きすら忘れたようなその表情に赤みが差して、言葉にならない何かを口を開閉させることで吐き出していく。


「リリー、これは……」

「『偶然はありえない』、セブルス。それに今更でしょ?あなたのはリリーと同じかもしれないって、私はずっと思ってた」

「とにかく、僕にだって守護霊が出せる。これでポッターらを見返して――」

「言わないでおく選択肢もある」

「でも僕が守護霊を出せるとリリーが知れば!」

「彼女はあなたを見直してくれる。でもその時には牝鹿を披露することになる。あなたにそんな勇気がある?」

「……僕は…………」

「まだしばらくは私たち二人だけの秘密にする方が良いと思う。ね?」

「……ああ、そうしよう」

「そうだ、言い忘れてた。おめでとう、セブルス!」

「ありがとう、リリー」


手を上げれば彼の手が乾いた音と共に重なって、ハイタッチで祝いを伝える。その一瞬の触れ合いでさえ私の心は騒がしい。

たとえ彼の心がここになくとも、私にとっての幸福が彼にとってはそうでなくとも。少しも揺るがないくらいには、

君が好き。

Special Thanks
you
(2019.10.7)


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