ここにいたのか


「ここにいたのか」


スネイプが正面玄関の外側に続く階段へ座るリリーを見つけて言った。数段あるその中央に陣取る彼女は寝静まった城内から現れた彼に驚く素振りも見せず、その姿を確認するとまた校庭へ視線を戻す。


「さっきまで、牝鹿の守護霊がいたの」

「……何か伝令でもあったのか?」

「牝鹿は何も話さなかった。ただ塔の上からここへ降りて、真っ直ぐこっちへ来ただけ」


銀の影を追うようにリリーが夜空を仰ぐ。薄雲の奥から洩れる月明かりを浴びて、彼女は虚空へ手を差し伸べた。


「私がこうすると牝鹿は顔を擦り寄せてきて、閉じた瞼に並ぶ睫毛がとっても綺麗だった。毛の一本一本までが精巧で、そこに一体どんな幸福が込められているのか……靄が温かかった……」

「守護霊に温度などない」

「それは分かってる。それでも確かに温かかったのよ」


リリーは先程までしていたように、今は影形のない牝鹿を撫でた。額から耳の間を通って後頭部までをなぞり、首元を擽る。背中を大きく往復した手を止めると、再びスネイプを仰ぎ見た。彼は何かを感受し、あるいは追憶にすがるように目を伏せていた。自分が見られていることに気付くとマントを引き寄せ深く息を吐き出す。


「きっと誰かに甘えたかったのね。けれど自分を出せずに、守護霊を通した。あれだけの守護霊を出せる人のことは知りたいけど、詮索はマナー違反かしら」

「……そろそろ部屋へ戻れ」


リリーが頷いて、スネイプは手を差し出した。冷えた互いの指先を感じ手を取り合う。見掛け以上に力強く引き立たせてくれる彼に身を任せ、二人は同時に玄関扉へ手をかける。


「ねぇ、セブルス。あなたの守護霊をいつか見せてくれる?」

「いつかな」

原文 そこにいたのか
Special Thanks
ステファン様
(2019.10.31)


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