あの日、一命を取り止めたダークヒーローは、ハロウィンの仮装をした人々の間を縫うように足早に歩いていた


あの日、一命を取り止めたダークヒーローは、ハロウィンの仮装をした人々の間を縫うように足早に歩いていた。

平常の街であればマグルがこぞって振り返るセブルスの服装も今日ばかりは溶け込んでいる。白いシーツを被った子供、グロテスクなメイクを施した女性、原色の衣装に身を包んだ正体不明の男性。寧ろ怪訝な表情をするのは先を急ぐ彼の方だった。

セブルスと似た黒のマントを纏う少年がフラリと揺れて彼の行く道を塞ぐ。咄嗟に急停止した彼を嘲笑うかのように少年が一歩後退り、彼の足先を踏みつける。容赦なくかかった体重は悲鳴を上げるほどではなかったが、彼の眉間は深く沈んだ。


「あの、ごめんなさい……」

「……気を付けたまえ。一人か?」

「あっちにパパがいるよ」


指差された然程離れていない場所では、少年と揃いのマントを身に付けた男性が頻りに周囲を気にかけていた。彼は明らかに何かを探している。セブルスは首を振るしか手立てのないマグル流のずさんな捜索を鼻で嗤った。


「ほら、早く行け」


軽く肩を押されたにも関わらず、少年はセブルスを見つめたまま動かなかった。


「ねぇ、おじさんは魔法使いの仮装?」

「……だったら何だ?」

「すごくいいね!僕の次にだけど!」


ヒラリと黒のマントを翻すと、少年が別れの決まり文句と共に片手を振った。駆けていくその背をセブルスは何ともなしに見送って、親子の再会を見届けてから視線を逸らす。

セブルスは共に時を刻みたい相手から贈られた大切な時計を一瞥し、今度は大股で駆け出した。




息を切らせ駆け込んできた彼を妻は愛しい我が子と共に迎えた。彼らしくない肩の上下と滲む汗にクスクスと笑い声まであげて、彼女は抱いていた小さな背をあやす。


「そんなに焦らなくたって私もこの子も逃げないから安心して」

「リリー、すまない。もう少し早く着く予定だったんだが……」

「良いのよ。それよりも名前は考えてくれた?あなたに紹介しようにもどう呼べばいいか分からなくて困ってるの」

「ああ、いや……」

「ルシウス?」

「それはない」

「ハリー?」

「止めてくれ」

「リーマス?」

「冗談だろう」

「ジェームズ?」

「勘弁してくれ。何も考えていなかった訳ではない。ただ……名前は一生付きまとうものだ。であるから……」


もごもごとかつての教え子が見れば卒倒する歯切れの悪さでセブルスが口篭る。指先を擦り合わせ何一つ手土産を持たずに来てしまったことへ後悔するように目を伏せた。


「いつまでそこに立ってるつもり?もっとこっちへ来て、パパ」

「その呼び方に返事をしろと?」


しっかりと異議だけは忘れずに、セブルスが一歩我が子へと踏み出した。ここへ来る道中の歩幅よりもうんと狭く、またゆっくりと踏みしめる歩みだった。今日ここまでのあらゆる道を辿る一歩。良いものも、悪いものも、すべてが混ざり合った一本の道。

ハロウィンの日に生まれた我が子を抱いて彼は一筋の涙を流した。

Special Thanks
you
(2019.10.25)


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