たとえ夢だとしても、
私は彼を抱きしめずにはいられない。
家並から突き出た煙突の目立つグレーに染まる街、スピナーズ・エンド。そこで佇むセブルスは独りぼっち。まだホグワーツへも行っていない幼い姿の彼は、サイズ違いの上着を着せられ、ちぐはぐなジーンズ。髪は手入れもされず伸ばされたままだった。
何かしたいことがあるわけじゃない。ただ、家にいたくなくて出てきただけ。そんな少年に、私は唇を噛みしめたあと、努めて朗らかに声をかける。
「こんにちは」
「誰?」
「私はリリー。あなたは?」
「僕は……セブルス」
警戒心を露にした彼は、上着を引っ張ったり袖口を弄ったりと落ち着かない様子だった。成長した彼もこんな風に指先を遊ばせることがある。思い出してクスリと笑った。
「僕に何か?」
「いいえ、あなたに似た人を思い出しただけ」
「その人はどこへ?」
「今頃私の隣で別の夢を見ているんじゃないかしら」
「隣?」
誰もいない空間を見つめ、セブルスは眉間を狭める。見覚えばかりの仕草なのは、これが私の夢だからだろう。この頃の彼に会ったことなんてない。それでも少しばかり話を聞いて、たった一枚、写真も見つけた。動かない、マグルの写真を。
「セブルス、あなたは将来、たくさんの人に愛されるわ」
「必要ない」
「私もそのうちの一人なの」
その言葉に少し悩むような満更でもない彼の表情。それを私が夢でさせているのだと思うと苦笑いが浮かぶ。
「愛してる」
親が子へ伝えるのとは違う響きを伴って、幼い彼へと伝わる。過去に手出しはできないけれど、埋められる何かがありますようにと、私はセブルスを抱きしめた。
フッと意識が浮上して、朝日と共に目が覚めた。しかしベッドから這い出すにはまだ早い。ぐるり寝返りを打って方向を変えれば、成長した今のセブルスがそこにいた。
「起きたのか」
「セブルスこそ」
「君の寝言に起こされた」
「私は何て?」
「『愛してる』そうだ。どんな夢を見ていたのか知りたいものだな」
セブルスは拗ねたように口角を下げ、ゴツリと額同士を当てた。ただその漆黒の瞳だけは逸らされることがない。
「そんなの、あなたの夢に決まってる」
「本人に直接言えばいいだろう」
「あなたも言ってくれるのなら」
途端に泳ぐ視線にクスクスと笑って、夢でもやったように彼を抱きしめた。時間を越えて、注げる愛があれば良いのにと願いながら。
「寝直すわ。セブルスもまだ早いでしょう?」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみ」
そしてまた夢を見る。
Special Thanks
you
(2018.11.11)