今私の目の前にあるのはみぞの鏡だ


今私の目の前にあるのはみぞの鏡だ。

そう確信した瞬間、経験したことのない感情が血液に乗って全身を駆け巡った。頭の先から足の先まで、細い血管も余すとこなく沸き立って、震えは皮膚をフツフツと粟立たせる。

数多の魔女を虜にし狂わせてきた欲望の鏡。見る者を惹き付けてやまないそれに写っているのは、紛れもない私の欲望。


「スネイプ先生……」


彼は鏡の中の私に寄り添い、とても穏やかな表情で私を見つめていた。こちらではなく、鏡の私を。彼らは肩を触れ合わせ、誰が見ても仲睦まじい。時折こちらを向くものの、本物の私と目が合うはずもない。

手にヒヤリと鏡が触れる。届くことはないと分かっていても、指先は先生の頬をなぞっていた。


「私を好きになってよ、先生……」


欲望を眼前に突きつけられれば、叶わぬ願いも容易く口から飛び出した。

瞬きの間にふっと鏡像が揺れる。少し遠くに写し出された先生はどこか困惑顔で、鏡の奥に一人立ち尽くしていた。そしてゆっくりと、伏せ目を上げる。先生の目が鏡を見る頃には、その姿はドロリと消え去っていた。

その刹那、真っ直ぐに私を捉える漆黒と通じたような気がして、反射的に振り返る。しかしそこはガランとした空っぽの空き教室だった。

どこからともなく入り込んだすきま風が月光に影も作らず空気をざわめかせる。お節介にも恋しい魔法薬めいた匂いまで乗せて私へと届いた。

向き直った欲望にはまた私と先生。

鏡ごしに目は合わない。

原文 鏡ごしに目は合わないから
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you
(2019.10.6)


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