「もう寮に帰りたまえ」
スネイプ先生は私を見つけるや開口一番にそう言った。けれど今はまだ消灯前。生徒が寮の外にいても良い時間。
「先生を待っていました」
「授業の質問があるようには見えん」
何も持たず立ち尽くすだけの私を先生が嗤った。
朝から様子のおかしかった先生は、授業後の外出から戻った今も尚おかしいまま。過労か心労か、倦怠感を一山抱えているような雰囲気で、闇を映すその瞳を私の背後にある扉へと流す。
「帰れ」
警告のように言い放ち、先生が私室の扉を開けた。
「ミス・エバンズ、君は寮へ戻らねばならない」
今度は言い聞かせるように。けれどその言葉とは裏腹に、中へと進む先生には私がくっついていた。手首に細長い指を回されて、されるがままの私を先生が引き入れる。
やっぱり今日の先生はすごくおかしい。
扉の閉まる音へ敏感に反応して振り返った先生は、何か葛藤するような、決まった敗北を認められずにいるような表情を隠すことなく歪めていた。その影が大きく揺らめいて、私へと倒れ込む。
「帰れ」
それでも肩へはずっしりと先生の重みが移される。その寄せられた額に私は背を撫でることで応えた。
「帰れ」
と、願いを繰り返す。鼻腔を擽る彼女の香りに酔いしれて、これ以上触れてしまわぬうちに。
しかし腕は掴んだまま。力で私に勝てはしないだろう。俊敏さも、経験値も、彼女では及ばない。それでも彼女に一ミリほどの拒否でも示されたなら――それは決して拒絶ではなく、私に深呼吸させる一時のもので――私は失意に身体を縛られ身動きできなくなる。
だからその隙に。たとえ「これ以上」を君が望むとしても。
もう私に堕ちる下など残されていないと思っていたのに。彼女の体温が背から私へと沁み込んでくる。それは一向に離れることなく、無情にも彼女は――
「このまま帰っていいんですか?」
Special Thanks
you
(2019.10.2)