「最近、忙しそうだな」
セブルスの言葉に強張ってしまった身体を誤魔化して、私は今日も笑顔を張り付ける。
「忙しいのは私だけではありませんから」
ヴォルデモートが暗躍し始めてからはとにかく時間が惜しい。だからこのくらいはなんてことないのだと、鋭い彼に真実を織り混ぜて返した。
「姿の見えない日も増えている」
ジリジリと迫るその身体に逃げるべきか向かい合うべきかと悩ませて、膝裏に当たるソファで動きを止めることにした。
「私も騎士団の端くれです。使いっぱしりくらいはしますよ」
とても、とても、危険な使いっぱしりではあるけれど。綱渡りのような任務をダンブルドアから任されたのだ。すべてのために、必ず成功させなければならない。けれどそれを正直にセブルスへ伝えれば、心配させてしまうに違いない。現状もそうなってはいるのだけど、知られてしまえばこの比ではなくなってしまうと長年の経験が言っている。
「なるほど。使いっぱしり、か」
途端、世界がぐるりとひっくり返った。
重力に抗った身体は虚しくも一瞬で敗北し、ソファへと沈められる。軋むクッションが悲鳴を上げて、その使い古されたスプリングを伸縮させた。
足払いか、肩を押されたか。恐らくその両方が一度に行われ、私は容易くセブルスに組み敷かれてしまった。
「……お見事です、スネイプ教授」
「どうも。だがこの程度で杖も抜けぬとは、少々だらけすぎでは?」
「あなたは敵ではありません」
「ならば味方として情報を明け渡していただこう。近頃すっかり消えなくなってしまった隈の理由を。……リリー」
彼の親指が目の下をなぞっていった。心を読まずとも見つめ合い名を呼べば、私が喋るとでも思っているのだろう。それで何度も観念してきた過去へは蓋をすることにした。
「……昨夜離さなかったのはあなたでしょう、セブルス」
「確かに。だが連日ではない」
随分と久しぶりになってしまった、気が引けるような気もする熱い夜を思い出し、茶目っ気たっぷりに笑ってみせる。それでも彼は少しも動じてくれなかった。
「隈を隠す呪文を探さないと」
「嘘を見抜かれても動じることのない心も身に付けねばな」
「なら適任の『先生』がここに」
彼へ腕を回し、クイと引き寄せる。拒まれることなく吐息が肌に触れ、鼻先を遊ばせあった。癖のある彼の髪へ指を潜らせ、あやすように後頭部を撫でる。
今日のところはこれで誤魔化せ――
「で、我輩に何を隠してるんだね?」
Special Thanks
you
(2019.9.20)