「Shall we dance?」
何曲目かの演奏が終わり、私が二人目の紳士と別れたとき、ようやく本来のパートナーが重い腰を上げる気になった。魔法薬界の重鎮が数多く参加するこのパーティの唯一の楽しみとも言えるお高いワインを手に取って、彼を焦らすように喉を潤す。
「踊らないんじゃなかったの、セブルス?好きじゃないって、そう言ったじゃない」
「あぁ、ダンスは嫌いだ。何を目的とした行為か全く分からん」
「ダンスなんて、子供が爆発スナップをするようなものよ」
「益々分からんな」
彼の指先が交互に組まれ、解き、爪を引っ掻いてみたかと思えば、逆剥けを弄ぶ。その落ち着きのない様子に私の口角は意に反して上がってしまう。
「分からないのはあなたの方。そのお嫌いなダンスを申し込むだなんて。ダンスよりも嫌なものを見た、って顔はしてるけれど」
「目の前ににやけた女の顔があればそうもなる」
「あら、私のせい?――いえ、そうね。私のせい」
グラスを返し彼へと身を寄せる。差し出された手へは触れずに彼の熱い胸へと手を当てた。
「この曲が終われば帰る」
「あなた一人で?」
「馬鹿を言うな」
「嫉妬するくらいなら初めから踊ってくれればいいのに」
「……踊るのか?踊らないのか?」
胸板へ置いていた手を滑らせて、腕を辿り彼の手のひらを擽った。きゅっと指先が握られて、手のひらを擦り合わせるように手を繋ぐ。彼の黒い瞳に映る私に満足して、私も彼だけを瞳に映す。
「Sure, I'd love to」
Special Thanks
you
(2019.9.8)