絶対不可能。
セブルスの手を振りほどくなんてこと。それは私の手首なんて容易く指を回せてしまう大きな手。私を引き止めるためだけに長く成長したのではと思いたくなるような細い指には魔法がかかっているに違いない。何度だってこうされたくて、確かめたくて、引き戻されたくなる魔法。
だから私はまた彼の心を揺さぶってみてしまう。
「セブ、少し買い物に出るだけよ。あなたの家に帰省してから、まだ一度も外に出ていないじゃない」
「食料はふくろう便が届けているだろう」
「運動不足になっちゃうわ」
「スピナーズ・エンドは空気が澱んでいる。それにこの暑さの外へ出たい人間がいるはずがない。そうだろう、リリー?」
「でもまだまだ休暇は長いのよ。ずっとこんな引きこもるような生活を続けるつもり?」
「ホグワーツへ戻るならそれも良い」
私の手首を掴む彼の手へと触れた。引き剥がされるとでも思ったのか、触れる直前に強まった力が私の心までもを鷲掴む。
「私は消えたりしないわ、セブ」
「誰しも、自分が突然消えてしまうとは思わないものだ」
彼は今にも吐きそうに顔を歪め、唇を噛む。その紫がかった唇へ親指を触れ、薄く口を開かせた。震える彼の吐息が指先から伝って私の全身を駆け巡る。なんて心地好い風だろう。
「あなたの過去に何かあったのかも知れないけれど、それは私じゃない」
「ここにいる君がすべてだ」
「そう。私は『ここにいる』。いるのよ、セブ」
依存し依存されお互いにお互いを閉じ込めて。身を滅ぼしかねないと分かっているのに、二人きりで構築する世界は媚薬よりも私たちを激しく貪る。重く苦しいほどの真っ黒な愛を、誰に悟られることもなく二人だけの秘密にしたい。共有していたい。
この世界からは逃れられない。
「キスを――」
「望むなら、とびきりのものを」
絶体絶命。
Special Thanks
you
(2019.8.12)