「日本の浴衣とは?」
セブルスがふと思い出したように言った。まるで飲み干したティーカップの底で茶葉が何かを示したようで、私は隣の彼を見る。
「浴衣、ですか?どうしてまた急に……」
「先に質問をしたのは私だ」
むっすりと、どこか拗ねたような雰囲気を覗かせつつ、彼は空のカップを弄ぶ。
「あっ……」
「何だ?」
思い出した。夕食前の大広間で私は生徒たちと故郷の話で盛り上がっていた。彼はいつの間にかそばを通り、いくつかを小耳に挟んだに違いない。
「いえ、何も。それより、浴衣でしたよね」
彼は話題を戻していいものか悩む間を見せ、ティーカップへ二杯目を注ぐ。短く肯定の返事をすると深紅の紅茶へ口付けた。
「フードのないローブに太いベルトを巻いたような服です。今はお祭りの日によく着られていますね。大抵は模様や絵が描かれていて、日本の伝統柄だったり、花だったりします。面白いのは……袖が長方形に垂れていることでしょうか」
呼び寄せた羊皮紙へ、私は浴衣を簡単に描いて見せた。彼はその絵をじっくりと観察し、ついで私を見つめる。その視線は上から下へと流れていった。
彼の頭の中で、私は浴衣を着ているに違いない。
「似合いますか?」
クスリと笑って尋ねてみれば、図星だと言わんばかりにセブルスの眉間が寄った。熱心な視線が逸らされたかと思うと、彼はまたチラリと横目でこちらを見る。
「どうだかな。実物を見ずには何とも言えん」
「実物をご覧になってもし似合っていれば、可愛いって褒めてくださるんですか?」
「……そう感じれば、そう言うこともあるだろう」
つんと澄ました顔で彼はティーカップを傾けた。
その黒髪から足先までを私はスルリと視線でなぞる。頭の中で浴衣を着た彼はモノクロのモダンな浴衣を優雅に着こなしていた。実物を見ずとも分かる。しかしだからこそ、見てみたい。
その時は、生徒のいないホグワーツの夜空へ大きな花火を打ち上げようか。小さな線香花火で肩を寄せ合うのもいいかもしれない。
「では、今度一緒に着てみますか?」
Special Thanks
you
(2019.8.5)