彼女から借りた本に、押し花が挟まっていた。
植物の水分を奪うことくらい杖の一振りで済むのに、丁寧に花弁を広げ葉を横たえた数本の花と薬草が分厚い古書で眠っていた。
「リーマス、さっき貸した本だけど――」
「押し花?」
ひょこりと彼女の部屋から廊下へ飛び出してきたリリーへ、振り向き様に言い当てる。彼女は照れ笑いをして小さく頷いた。
「ちょうど良かったものだから」
「確かに、この分厚さは読むだけじゃ勿体ない」
「もう、リーマスったら」
美しく誇ったままの草花を損なわぬように差し出して、彼女の手へと返す。無事に戻った押し花に微笑む彼女は、まるでそこに愛する人が座っているかのような目をしていた。
彼から借りようとした本に、栞が挟まっていた。
それは明らかな手作りで、これをセブルスが使っていたのかと思うと、その意外さに多少首を突っ込みたくなる。
「ルーピン、今すぐ本を返せ」
「栞は返すから、本はこのまま貸してもらえないかな」
彼の部屋を出る前に引き止められ、振り向き様に本から栞を抜き出す。そこに封じられていた押し花には見覚えがあった。
「かわいい栞だね」
「いざとなれば煎じて薬にもできる栞だ」
よくよく見れば、使われている草花はどれも魔法薬の材料になるものだった。
セブルスが俊敏に私から栞を奪い去る。彼は本までも取り返そうとはしなかった。
追い出されるようにして薄暗い廊下に出れば、次の訪問者と出くわした。リリーはちょうど松明の下で立ち止まり、私へ微笑む。そして吸った息を一纏めに吐き出して、彼女は片眉を器用に上げた。
「リーマスのあとにセブルスと会うと、高確率で機嫌が悪いの」
「きっと今は大丈夫だよ」
「あら、どうして?」
「大事な大事な栞を私から取り返せたから」
確かにセブルスが入れ込むのも分かる。私の知らない彼女も彼はきっと見ているだろうし。目まぐるしく変わるその魅力はいつまでも追っていたくなる。
恥ずかしそうに俯いた君は、あの花のように可憐だ。
Special Thanks
you
(2019.7.31)