「僕の好きなもの……?」
「そう!セブルスは何が好き?」
リリーに問われて、日常を振り返った。
今いる中庭は好きじゃない。隅に生えた曲がりくねった木は座り心地が悪いし、いつどこから悪戯されるか分かったものじゃない。少し離れた柱にはグリフィンドールが群がって何やらこそこそと話している。
嫌いなものはどんどん、どんどん、思い浮かんだ。嫌いなやつも。けれど好きなものはそうはいかない。
ついつい選んでしまうもの、時間を割くことを厭わないもの、見てしまうもの、手に入れたいもの。そういうものをかき集めて、僕は好きなものを完成させた。
「黒……闇の魔術に関する本……呪文の開発……」
見てしまうものと手に入れたいものは一人の笑顔が浮かんで口に出せなかった。
「呪文の開発をしてるの!?セブルス、すごい!」
「いいや、そんなにすごくない。まだ完成もしてない」
「私、自分で呪文を作ろうなんて考えたこともなかった!」
「やろうと思えば、誰にだってできる」
「私にも?」
「あぁ、できる」
新しい呪文を作ることは、特別な人間だけに許された高度な魔法じゃない。なのにリリーの瞳を見れば、自分が偉大な魔法使いに名を連ねたような、そんな気になってしまう。
視線を逸らし、代わりに廊下で騒ぐ馬鹿なやつらを睨み付けた。
「リリーの好きなものは?」
「私?」
その声は想定外の質問に本当に驚いたようだった。
「僕は答えたんだ。君も言うべきだろ」
視線を彼女へ戻せば、足をぷらぷらと揺らしていて、僕よりも答えに困るという風に眉間へシワを寄せていた。その意外な様子に面食らう。彼女はつらつらと噴水のように好きなものが溢れてくるのだと思っていた。
「……今、かなぁ」
「悩んだ上、随分と広い答えだな」
「あとは……」
そう言って、彼女の人差し指がこっちへ向けられる。その指先を追って振り返れば、隣接した廊下の曲がり角にハッフルパフの監督生。そしてかの悪名高い悪戯仕掛人が一人、ミスター・病弱が立ち話をしていた。
「違う、違う!」
リリーがヒーヒーと腹を抱えて笑い出す。僕を取り残し、ついには目に涙を浮かべていた。何が違うのかと尋ねても、笑うばかりで話にならない。
中庭の一番遠い端から、クラスメイトがリリーを呼んだ。
「行くね」
「ご勝手に」
ローブの袖で涙を拭いて、彼女は木からヒョイと飛び下りた。危なげなく着地すると僕を振り返る。そしてまた、こちらを指した。追った指の先にはもう誰もいない。
「一体、何が――」
リリーは友人の元へ走ってしまっていた。
もう一度、彼女の指した方向を見て、彼女のいた場所を見る。そこに誰もいないのに、
おかしいな、君の顔ばかりが頭に浮かぶ。
Special Thanks
you
(2019.7.22)