カエルが鳴き出して


カエルが鳴き出して

私はふと、そばの茂みを覗き込んだ。背の高い雑草に隠れ、そこには親指ほどのカエルが一匹。雨露を集める葉の窪みに陣取り、喉元を膨らませる。

誘われるように、別の場所からも同じ鳴き声が現れた。あちらも、こちらも。どんどんと重なるその声に、私の心はぐんぐんと時を遡る。

かつて私は大きなカエルを抱え、自らの歌声を響かせていた。ホグワーツの合唱団。そこでリーダーを任されたことが私の誇り。

けれどもそれは、長く続かなかった。






「パパとママが、アズカバンに……?そんな、何かの間違いです!」


呼び出されたスネイプ先生の研究室。こんな話を聞くことになるなんて、一体誰なら想像できただろう。


「そう言いたいのは分かるが、ご両親は罪を認めた」

「そんな、違う……服従の呪文です!誰かに、きっと!」

「エバンズ、君は早急に身の振り方を考えなければならない。両親は両親、君は君だ。ホグワーツは変わらず君を受け入れる。だが君の周囲は多少なりとも変化するだろう」




私はホグワーツに残ることを決めた。これから先の人生をちゃんと一人で生きていけるように、学ぶと決めた。

スネイプ先生の言った通り、友達だと思っていた人たちの中には、そうじゃなかった人もいた。ヒソヒソ、コソコソ、四六時中誰かの囁く声がする。それが本当に起こっていることなのか、幻聴か、いつの間にか判断がつかなくなっていた。

そうした環境の変化は、とうとう私から声を奪っていった。合唱団にいることもできず、授業でも思うように力を示せず、塞ぎ込む日々。気遣ってくれた友人からも自ら距離を取った。




「授業で学ぶ前とは言え、よもや無言呪文を知らないわけではあるまい」


スネイプ先生がそう声をかけてくれた日が、今も強く色付いている。バッタリと会った廊下で、チクリといつもの嫌みを言うかのように、先生の口から飛び出した。

私にも、使えるだろうか?

そう不安に染まる心へ返すように、先生は風に靡かせていたローブを引き寄せて、当然だと胸を張った。


「ここは『魔法』の『ま』の字も知らなかった人間が首席となって卒業できる場所だ。要は、君に学ぶ気さえあれば良い」


私は大きく頷いて、少しでも意欲が伝わればと杖を掲げる。そんな私に先生は……ふっ、と笑っていた。

気にかけてくれたのは寮監故、だろうか。笑ったのも、滑稽な私を見たせい。先生は、本当の先生は、みんなに意地悪な先生?それとも、私の背中を押してくれた先生?

結局声は出ないまま。スネイプ先生に助けられ、無言呪文ばかりが上達した。




『今まで、ありがとうございました』


卒業の日、私は宙に浮かべた文字でスネイプ先生に感謝を伝えた。


「礼くらい、自分の声で言えるようになってから出直せ。歌う君の声は他の誰よりもよく通っていた。……うるさいくらいに」


私が驚いていると、先生は最後に一言付け足して、足早に私から離れてしまった。

足は動く。追いかけることは容易い。けれどそれは、お礼が言えるようになってから。そう決めた。






卒業してからもう何年も経つ。先生は私を忘れてしまったかもしれない。けれど――。

私は喉に触れた。

もうそろそろ・・・。

Special Thanks
you
(2019.7.13)


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