恋人とキスしたい


恋人とキスしたい。

それはきっと誰にでもあるありふれた悩み。年齢だとか、付き合ってからの期間だとか、重ねた回数だとかは関係ない。

ふとした瞬間に、どうしようもなく彼の唇を見つめてしまう。薄く、かさついて、ねっとりと動くそこに誘われて、彼の口付けるゴブレットや零れ落ちる吐息にすら嫉妬する。


「何だ?言いたいことがあるなら早く言いたまえ」

「なーんにも」

「ならさっさと手を動かせ。薬材料棚はそこだけではない」

「分かってますよ、スネイプ教授」


早く仕事を終わらせれば甘い夜が待っている。なんてことはなく、次の仕事があるだけ。これでは思いを告げる前と何ら変わらない。以前は諦めがついていた分、悶々とした今よりマシかもしれない。


「教授、目元にゴミが付いてますよ」

「どこだ?」

「ここです」


古から続く使い古された手。ゆっくりと彼に手を伸ばし、指先を目元に滑らせる。


「動かないで、目を閉じてください」

「君の目はその口以上によく喋る」

「因みに、今は何て言ってます?」

「良いのか?当てる自信がある」


くっと彼の口角が上がった。どうやら私の作戦はお喋りな目が揚々と語ってしまったらしい。それならそれで、可愛い恋人を受け入れる気があるのなら、

早く目を閉じてよ。

Special Thanks
r.a様
(2019.7.10)


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