たとえ業火に焼かれようとも、
孤独な戦いになろうとも、私は進むべき道を決めた。生きるため、と仕方なく黒に染めたこの両手を、今度は望んで闇へ塗り直す。
それは人狼である私を切り捨てた世界のためじゃない。
「ルーピンさん、私、やります」
「本当に、良いのかい?」
「もちろんです。同じ人狼でも、私の方が闇の世界では多少顔が利きますから」
例のあの人の復活が虚言だと世間では嘲笑われていても、私はダンブルドアを信じることにした。私を信じ、ホグワーツへの道を用意してくれた彼のために。今は顔向けできる生活ではないけれど、いずれは誇って会うために。
それに彼の号令の元で集まった他のメンバーには私の心を掴んで離さない人物がいた。青春だと懐かしむには重すぎて、胃凭れしそうな恋心。
その人とは、ダンブルドアよりも先に再会することができた。
「おやおや、小綺麗な小悪党がいると思えば、ミス・エバンズではないかね?」
「ご無沙汰しています、スネイプ先生」
騎士団の本部で偶然にも出会した。帰ろうとしていた私と来たばかりの先生。廊下で立ち止まる私に、向こうから話しかけてくれるとは。
「人狼嫌いの世に嘆き、地へ落ちたと聞いていたが、ここはいつから人狼の掃き溜めになった?」
とても嬉しい世間話とはならなかったが。
私への視線が奥のルーピンへと流れ、先生は鼻で嗤う。軽く組んだ指先を蠢かせ、ギラリと黒の瞳がすべてを見透かさんとしていた。その仕草どれもが懐かしく、もどかしく、愛しく、苦しい。
「せんせ――」
「ルーピン、自身の力不足を自覚しているとは素晴らしい。だがこんな落ちぶれた人狼を巻き込むというのはどうかと思うが」
私の言葉を遮って、先生は声を張り上げた。
「彼女は私にはないものを持ってる」
ルーピンが言った。近付く足音が聞こえ、彼の手が私の肩へと添えられる。
「君も草臥れたローブの好きな優等生でいるべきだった」
細められた先生の目に、私は何を汲み取れば良いのだろう。失望か、同情か、それとももっと別の何かか。
「世間がそうさせてはくれませんでした」
「なら一生嘆き続けていろ。ここは人狼の保護施設ではない」
「セブルス!」
「いいんです、ルーピンさん。現に私はあなたのように強くはあれなかったわけですし」
振り返ると、ルーピンが悲しげに眉を寄せていた。きっと私のような人狼を数多く知っているのだろう。世間から弾かれ、転がり落ちた者たちを。
「ここは気軽に参加できる集まりではないぞ、ミス・エバンズ」
「承知しています」
「君は私の助言を聞き入れた試しがない」
「そうですね……先生の進路指導も、結局は活かせないままになりました」
「君にとって命を懸ける価値のあるものなどこの世にはないだろう。誰も落ちていく君を救おうとはしなかった」
即答できなかった。だって「誰も」ではなかったから。私が道を誤ろうとしていたとき、届いた手紙が一通だけある。差出人のない、用件だけの短い手紙。誰の文字かはすぐに判別がついた。
差し延べられた手を取れず、結局は今の私になってしまったけど。あの時、私がどれほど救われたか。卒業してから今までの間、ずっと消えることのなかった恋心の理由がそこにある。
「……私にも、守りたいものがあります」
「ほう、何かね?」
「それは――」
守りたいのはあなた。
Special Thanks
you
(2019.7.6)