静かで神妙な愛の告白だった。
彼女は珍しくリリーから離れ一人で僕の元へとやって来て、いつもの半分ほどもない声量で、僕より1歳下のクセに同じ背丈を今日ばかりは縮めていた。
「9月からリリーと一緒に遠い学校に行っちゃうんでしょ?だから、言わなきゃと思ったの」
そう付け足して、彼女はまたモジモジと指先を弄ぶ。これは、彼女が去ろうとしないのは、僕の返事を待っているのか?
ならば、と息を吸い込んだ。
「ただのマグルと関わる気はない」
「マグル……また私には分からない単語を使うの?リリーと内緒のお喋りをするための言葉でしょ?それって、私のことが嫌いってこと?」
「好きも嫌いもない。僕は君に興味がないだけだ」
「そんな、セブ……」
何か期待でもしていたのか、彼女は勝手に裏切られたような顔をして、自分勝手に涙を流す。こんなところをリリーに見られでもしたら、何て言われるか。
そんな煩わしい状況にもかかわらず立ち去らなかったのは、彼女から零れた涙の行く先に釘付けだったせい。
彼女の涙は頬を滑り、ある瞬間、ふわりと浮かぶ。それは大粒の雪だった。そよぐ柔らかな風に拐われこちらへと着く。雪はじわりと溶けて消えた。
「まさか、君も……魔女なのか?」
「魔女?それって、セブにとって良いこと?」
「ただのマグルよりはよっぽど良い」
「じゃあ私、魔女になる!」
彼女にとって、きっとこれは一度目の思いもよらぬ光明。
僕らに遅れて1年、リリーはホグワーツへやって来た。意気揚々と組分け帽子を被り、叫ばれたのは「スリザリン」。僕もリリーも同じ顔をして驚いた。僕を見つけるやいなや、リリーはテーブルへ駆け寄って、
「これで私も魔女よ、セブ!」
そして満面の笑みで僕に握手を求めてきた。
きっとこれが二度目。
三度目は、私の知らない場所で起こった。
そして四度目も。
五度目はリリーをホグワーツへ呼び寄せた。教職員の一員として。
「これで私もホグワーツの教師よ、セブ!」
あの日と同じ表情で、彼女は私へ手を差し出した。
リリーの息子が入学しても、魔法界の情勢が変わろうとも、リリーは何度も私の前へと立ち塞がる。阻む壁としてではなく、手を取るべき希望として。取らねば動かぬ壁として。
彼女との出会い、彼女の心、その執念と不屈の精神。そして私にとっての彼女のすべて。
それは、思いもよらぬ光明。
Special Thanks
you
(2019.7.5)