人物の情報は声から忘れていくらしい


人物の情報は声から忘れていくらしい。


『スネイプ先生!先生、行かないで!』


ホグワーツでの大戦の最中。不幸にも出会してしまったエバンズの泣きすがる姿を未だに夢に見るというのに、その夢にはいつからか音がない。


『絶対、戻ってくるって、信じてますから!』


言葉は思い出せるというのに、声だけが、ない。


『また会える日まで、ずっと待ってます!』


最後の一年、防衛術として様々な呪文や決闘での心得を叩き込んできた。背中を預け合える仲間も、彼女には大勢いる。それなのに。

よもや、私だけが生き残ってしまうことになろうとは。

この下に埋まるべきは、私であった。

整然と並ぶ墓石のひとつに、花を手向ける。店員の選んだ、エバンズが好きかも分からない色とりどりの花束。風に揺れるリボンは、いつも彼女の首に揺れていた黄色。


「何故私を信じると言えたのか、聞いてやろうと思っていたんだがな。一体どこで待つ気だ、君は……」


毎日のように聞いていた笑い声が、耳について離れそうになかった彼女の声のない日々が、訪れる時が来るとは思いもしなかった。


「もう一度、声を聞かせに来い」


声が消え、きっと君の笑顔も朧気になってしまう。泣き顔だけが最後に残り、いずれはそれも思い出せなくなるのだろう。


「あの年の今日。零れてしまった命は君だけではない。なのに、どうして、私は君ばかりを夢に見るのだろうな」


目を閉じて、まだ思い出せる笑顔を思う。


「また来る」




そう言って、スネイプ先生はゆっくりと墓地から離れてバチンと消えた。それを木陰から眺めていた私は、木を通り向け花束へと滑るように移動する。

私は死を選べなかった。

共にホグワーツへ残ることを選んだ仲間は誰も選ばなかったこの姿。醜くて、醜くて。先生の前に出ていけるはずがない。

もう一度声を聞かせに、なんて言わないで。

もう墓参りには来ないで、先生。

私は先生の声を忘れられない。

必ず来てくれる命日に、私も必ず先生を求めて来てしまうから。

だって、この心は、

最初から、恋でした。

Special Thanks
you
(2019.7.2)


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