夢を見た。
近頃よく見る、懐かしい父の夢。私が寝付くまで絵本を読んで、子守唄を歌って、トントンと優しく鼓動のように叩いてくれた。低い父の声は何よりも落ち着いて、私を深く眠りへ誘う。
ふっと意識が浮上して辺りを見渡すと、そこは医務室。ホームシックで泣く新入生にベッドを貸して宥めていたはずが、いつの間にか私まで眠っていたらしい。彼女を起こさないように伸びをすると、トサリと何かが肩から滑り落ちた。
それは真っ黒なマントだった。何の変哲もない、極めてシンプルなデザイン。心当たりに微笑んで抱き締めれば、ふわりと彼の匂いが届く。
医務室のベッドサイドで、職員室の机で、地下のセブルスの隣で。夜に限らず、どうも最近はうとうとと夢に誘われる。いつだってうたた寝する気はないのに、疲れているのかもしれない。ソファに座り彼の肩を借りて微睡むこの時間は、幸福ばかりに満たされる。
「適当に起こしてやる。たまには昼寝も良いだろう」
「でも、セブルスの邪魔に……」
「気にするな」
そう言って彼は僅かに身動いだ。そして柔らかな旋律が彼を伝って私へ流れ込む。それはかつて父が歌ってくれた子守唄。私が時折生徒へ歌う子守唄。低く落ち着いたセブルスの声が懐かしい思い出を奏でていた。
「セブルス……」
「君の真似事だ。気に障ったなら止める」
「ううん、続けて。すごく安心する」
「だろうな。寝顔で分かる」
「もしかして、最近よく――」
「これ以上は目が覚めかねないぞ」
そう言って、彼は大きく息を吸った。そして再び慈愛に満ちた声が歌を奏で始める。
彼の体温を感じて、歌を聞いて、暖炉ではぜる木を感じて。意識は徐々に深くへ沈む。
懐かしい父に会えるのは夢の中。けれど隣で私に安らぎを与えてくれる人の存在は、
夢じゃなかった。
Special Thanks
r.a様
(2019.7.1)