「あなたが愛しているのは彼女でしょう?」
私の言葉に、セブルスは否定もできず眉間を寄せた。「違う」とその場限りの分かりきった嘘も吐けない彼が愛おしい。
「リリー――」
「違う、とは言ってくれないのね」
「待て、それは――」
「それは?」
「それは、彼女が我々の娘だからだ。君だってあの子を愛しているだろう」
「……まぁ、そうね。もちろん」
「ならお互様だ。君は私よりあの子を優先している」
拗ねたようにも感じるセブルスの声色に目を見開いた。ばつが悪そうに彼は視線を逸らし、袖を引いてもこちらを見ようとしない。
「セブルス、構ってほしかったの?」
彼はまた「違う」とは言わなかった。
「そっか、そうなんだ」
ふーん、と緩んだ頬で彼を見上げる。チラリとこちらを向いた黒い瞳には企みが映っていた。小首を傾げ促せば、その細い指が頬に触れる。
「私が君にこうして触れるときは、あの子へするように額ではなく……」
「パパ?ママ?」
唇が触れ合うまであと三秒。絶妙なタイミングで声がかかった。隠すことではないものの、雰囲気を作り直してまで見せつけるものでもない。ピシリと固まり離れていく手を見送りながら、僅かに下がる口角に笑いが込み上げた。
「ごめんね、起こしちゃった?」
扉を薄く開け覗き込む愛娘を手招きで呼び寄せる。
「ううん。のどがかわいたの」
首を横に振り目を擦る彼女は微睡みの最中にいるような表情だった。明日になれば今のことを忘れているかもしれない。
娘をソファへ座らせて、杖を振る。ホットミルクの用意が進む音を聞きながら、私も隣へ腰かけた。セブルスは少し離れた壁へと凭れる。
「ママ、うれしそう」
「そう?」
「パパに言ってもらったの?ママがだいすきだよって。パパね、わたしにいつも言うから、ママに言えばいいのにって、ずっと思ってたの」
ゴソリと壁際から布ずれが聞こえた。
「いつも言ってるの?」
「うん」
「ママのことが大好きだって?」
「うん」
突然の暴露に笑いを噛み殺しながら彼のいる方を見た。そこにはいつもの数倍血色を良くした彼の姿。愛おしくてたまらない。夫も、娘も、すべてが。
「ママもね、パパのことが大好き」
「もう!パパに言って!」
完成したホットミルクを娘へ渡す。ゆっくりと飲み始めるのを見届けてから、再度セブルスを伺った。今度はバチリと目が合って、彼は
気恥ずかしさに背を向けた。
Special Thanks
yu様
(2018.11.23)