旅先から届く恋人の手紙を待ちわびる日々。
時には絵だけが届いたこともあった。その葉書サイズの紙には宛名も差出人もなく、彼女のふくろうですらない。明らかに南が生息地の極彩色をした大きな鳥だった。しかし描かれた絵のタッチは彼女のもの。イギリスでは貴重なその絵の薬草に、実物を送れと返事をしたためたにも関わらず、ついにその要求は無視された。
かと思えば、彼女のふくろうが小瓶の入った袋を足にくくりつけて飛んで来たこともある。これも宛名や差出人はなく、貴重な魔法生物の毛が入った小瓶のラベルは彼女の筆跡に違いなかった。
そんな彼女に比べれば、私は筆忠実に違いない。
彼女から送られてきたあらゆるものを入れた木箱へ蓋をして、棚へと戻した。何度見返そうと、中身が増えることはない。どれだけ文字を追おうと、彼女が帰るわけでもない。
あれほどホグワーツを卒業したくないと駄々をこねていたにも関わらず、いざ自由になれば卒業旅行だなんだと世界中へ飛び出して。あれほどこの私室に入り浸っていたにも関わらず、卒業して私の気持ちを知れば会えずとも構わないのか。
あれほど――。
突如暖炉が緑の炎をあげ、中から一通の封筒を吐き出した。
「アクシオ(来い)、封筒」
表の中央には見知った筆跡で『セブルス』と。裏返せば、珍しく隅に『リリー』と書いてあった。
すぐさま机上のペーパーナイフへと手を伸ばす。
『手紙の書き出しは、何を書いていいのかいつも悩みます。スネイプ先生からの手紙はたぶんすべて届いています。いつも読むのが楽しみで、先生の声が聞こえてくるみたい。その度に会いたくなって、夢に思いを託しています。でもそれも限界で、近々イギリスへ帰ることにしました。貴重な薬材料のお土産と引き換えに、小言は控えめにしてくださると嬉しいです。大好き。』
意味がなくとも勝手に指が彼女の文字をなぞり、心がその声を作り出す。取って付けたような背後の一言に鼻で嗤った。
彼女の言う『近々』が、一体どれ程先になるのやら。手紙を待ちわびる日々が、彼女自身を待ちわびる日々へと変わる。
旅先では何事もなかったようだった。帰路もそうであればいい。早く会おうとするあまり馬鹿げた問題を引き起こすことだけはするな、と手紙を送り返してやろう。私を視線で追いかけ柱にぶつかったあの時のようなことはするな、と。
……まったく、心配でたまらん。
Special Thanks
you
(2019.6.15)