「言わせてもらいますけど、
スネイプ先生は言動に問題があるだけで、その心の奥底に眠る――」
「あー、はいはい分かった分かった。分からないけど。それよりも早くやってもらえる、一番手さん?待機列が寮の外まで続きそうだよ」
肩を竦めるクラスメートを一瞥し、リリーは初めて入る男子寮の寝室で、椅子を台に窓へ足を掛けた。城の上方に作られたグリフィンドール寮からの眺めは格別。リリーは肺一杯に空気を吸い込むと、窓枠を両手で掴み、身を乗り出す。
「スネイプ先生ー!ありがとうございましたー!好きーーー!」
「ほら、セブルス。呼ばれましたよ。今年は熱烈なスタートになりましたね」
わくわくとはしゃぐマクゴナガルに連れられて、スネイプは校庭に立たされていた。二人の周囲には同じく見物人が塔を見上げて囁き合う。スネイプは周囲に睨みを効かし、舌打ちとため息で一先ずの落ち着きを保つ。
毎年卒業前日に行われる、グリフィンドール生の伝統儀式。馬鹿げた催しに何故自分が、と眉間へありありと不満を寄せて、それでも立ち去りはしなかった。遥か上の窓にここ数年で一番に手を焼かされた生徒の姿を見つけ、彼女が一体何を叫ぶつもりなのか、多少の興味が湧いたのだ。
それが、まさか。
「手を振り返してあげないのですか?」
「ご冗談を」
やけに楽しげな同僚に寒気がした。
エバンズは飛び下りそうなほど身を乗り出して、こちらに手を振り続ける。時折口へ手を当て投げるような馬鹿をし、揉めるような様子を見せたあと、とうとう姿を消した。
「行っておやりなさい」
「ここへ我輩を連れてきたのはあなたでは?」
「あの子以外にあなたの聞くべきメッセージを叫ぶ生徒はいませんよ」
グリフィンドール塔では二番手の男子生徒が壮大な野望を叫んでいた。
「今頃友人と別れを惜しんでいることでしょう」
「いいえ、彼女はここへ来ます」
何故断言できるのか。よもやグルなのでは。そう勘繰るほどで、マクゴナガルは真相を瞳で語ろうとはしなかった。
「何故我輩が一人のグリフィンドール生とわざわざ言葉を交わさねばならない?」
「私は特別な存在の教え子がいても良いと思っています」
「あなたにとっては、ハリー・ポッターがその例でしょうな」
「あの子は魔法界にとって特別な存在です。ですがエバンズは――」
中途半端に言葉を切って、マクゴナガルは正面玄関に姿を見せた女子生徒へ微笑んだ。小走りで寄ってくるはつらつとした笑顔にスネイプは追い払う仕草で手を振る。従順な彼女はピタリと足を止め、肩を落とした。スネイプはため息を落とし、下げかけた手を腰で止める。そして周囲から指先を隠すようにして、控えめに伸ばした人差し指で地面を指した。
心得た、と花を咲かせ城内へと戻る彼女を、二人の教師が見送る。
「優しい言葉のひとつくらいかけてやってはどうです?」
「いつもそうしています」
「最後なのですよ?」
「大袈裟でしょう。卒業してもホグズミードで飲んだバタービールの味は忘却されない」
「いいえ、最後です」
そう言いきった彼女の表情が鈍い音を立てて心に突き刺さる。その傷口から吹き出す血のように、地下で待たせているエバンズの笑顔が思い起こされた。
いつも、いつも、私に笑いかけ、時には噛みついて、すべてを私と共有するかのように駆け寄ってくる。多少は絆され、らしくないことをした日もあった。今日だってそうだ。
しかし、
「特別と言うよりも、あれは寧ろ、特殊な生徒だった」
「あなたがそれを選択するのなら良いのです。ですがセブルス。他の何を偽ろうと、自分の心を
ごまかさないで」
Special Thanks
you
(2019.6.11)