プレゼントを渡したい。
今日という何でもない日に、感謝を込めたプレゼントを。
大鍋の爆発から守ってくれてありがとうとか、意地悪なグリフィンドール生を追い払ってくれてありがとうとか、そんな大それたものもない。小さな小さな欠片を寄せ集めた大きな感謝の気持ち。
ターゲットはいつも通りにやって来た。職員室から地下牢教室へ、階段を下りてくる。足早な靴音に重なって、私の心音が騒ぎ立てていた。
カバンから取り出したプレゼントを隠すように両手で包み、深呼吸。ニッと口角を上げて笑顔の準備も万全。
「おはようございます、スネイプ先生!」
「急ぎたまえ。もうすぐベルが鳴る」
先生は怪訝そうに一瞬だけ私の手元へ意識をやって、関わりたくないとすぐに逸らす。私が悪戯ばかりの問題児だったなら、きっと引き止められていただろう。
朝の冷える地下に、先生は着ていた薄手のマントを引き寄せた。
すれ違う瞬間、そのフードへプレゼントを放り込む。
「エバンズ!何をした!?止まれ!」
「ごめんなさい、先生!授業に遅れるので止まれません!」
「エバンズッ!」
あとは逃げるだけだった。プレゼントをプレゼントだと知られる前に首根っこを掴まれ説明させられる羞恥には耐えられない。先生にだって授業がある。よっぽどの悪戯でなければ追いかけて来ないと分かってこの時間を選んだ。
先生が見えなくなる寸前の場所まで逃げて、ムズムズと気になっていた後ろを振り返る。魔法薬学に秀でた魔法の指は私の用意したプレゼントを掴んでいた。眺め回し、振って、かなり警戒されている。けれど何をしたところで悪意は欠片も贈っていないのだ。
どうか、箱を開けてくれますように。
込めた気持ちが届きますように。
誰かが開けた正面玄関から風が大量に流れ込む。地下階段を駆け下りたそれは私の髪を乱して過ぎた。すぐに弱まってしまった風はなんとか先生へと辿り着くと、
そっと頬を撫でた。
Special Thanks
r.a様
(2019.6.4)