自分には不似合いだと思っていた。
自身を着飾る意味など理解できない。もっと見目の良い人間ならまだしも、私はそうではない自覚がある。そもそも興味すらない。毎日の服でさえ選ぶのは億劫で、不要な装飾などもっての他。
しかし今、リリーは私の左の耳朶にあいた小さな穴を凝視している。それは彼女が冗談混じりに言った言葉を実現させてやろうという私の悪戯心からだった。
「まさか、本当にあけるなんて!」
彼女の指先がつんつんと耳朶を揺らした。
「君が言ったんだろう」
「冗談だって分かってたくせに」
「なら塞いでしまうか?」
「それこそ冗談でしょう!早速似合うピアスを探さなきゃ。セブルスに任せていたら何年経っても選びきれないでしょうから」
否定もできずに口を縫ったままでいると、彼女はクスクスと嬉しそうに笑った。
リリーが見つけてきたピアスは着けていることも忘れそうなほどシンプルなデザインだった。私の髪ならば容易に隠れてしまう。
彼女は度々私の髪をかき上げて、その下に隠れた小さな飾りを見たがった。お返しにと彼女の髪へ手を差し入れて、右耳へとかけてやる。そこには私と揃いの色が輝いていた。
休暇が終わり、一人ホグワーツへ戻っても、私はそれを着け続けた。
ふとした風の遊び心で生徒が気付く。ヒソヒソと髪に隠れた左耳を想像しては、余計な憶測に花を咲かせていた。
これを見た他の人間と私も意見は同じ。私はまだこれを似合うとは思えなかった。まだ、あと少し。馴染むには時間がかかる。
それでも外さずにいるのは、これを着けてくれた日のリリーの声が何度も心によみがえるため。馬鹿馬鹿しいと思っていた揃いを身に付ける行為も、存外悪いものではないのかもしれないと私に思わせる。
彼女は自身の右耳に着けた輝きに触れながらはにかんで、私の左耳へと口付けた。
『お揃いって、何だか照れますね。どれにするか悩みましたけど、これを選んで正解でした』
『それはそれは随分と苦労しただろうな。私に似合うものなど――』
『とんでもない!逆に着けてみてほしいものが多くて困ったくらいですよ!』
彼女は大袈裟で、しかし嘘偽りない笑顔だった。
『本気で似合うと?』
『もちろんです!
世界一似合ってる!』
原文 世界一似合っている
Special Thanks
you
(2019.6.3)