ずっと、君が好きだった


ずっと、君が好きだった。

その赤毛も、緑の瞳も、笑顔も、魔力も、努力家なところも、ずっと。抱いていた感情を「好き」と表現できるまで時間はかかったけど、リリー、僕はずっと君が好きだったんだ。

そのことに気付かせてくれたのは、お節介な正体不明の友人。スリザリン生だということ以外は名前も教えようとしない奇妙なやつ。


初めて出会ったのは、三年生の終わり頃だった。いつの間にか背後に立っていて、向こうから声をかけてきた。


「君、昨日も最後まで談話室に残ってたよね。レポートが終わらないのかな?」


呑気な声にムッとして、振り返ろうと羽根ペンを置いた。


「振り向かないで!」


先程とは真逆の声に驚いて、僕の身体はピタリと止まる。


「ありがとう」


一体どんな理由があるのか。振り返って確かめてやろう、と思ったのに。先に礼を言われてしまえば、それ以上首を回すことはできなかった。


「レポートじゃない。これはリリー……友達と競ってるんだ。教科書の間違いをひとつでも多く見つけた方が勝ち」

「教科書に間違いなんてある?」

「ある。コウモリの脾臓の数が多いとか、かき混ぜる回数が少ないとか、色々。僕はもう12個も見つけた」

「勝てそう?」

「……勝つ」

「分かった!リリーちゃんに良いところ見せたいんでしょ!」

「な、違う!僕はただ――」


感情に身を任せ振り返ると、そこにもう彼女はいなかった。


彼女は夜遅く、僕が談話室に一人きりになったときにだけやって来た。ソファや肘掛け椅子に座っていると、彼女は毎回いつの間にか後ろを陣取っている。回数を重ねるごとに振り向かずにいることにも慣れて、談話室に一人になると、背中がムズムズとすることもあった。

彼女は僕とリリーについて話すことが好きだった。ああだこうだと勝手に口を出しては楽しそうに笑う。女の子は往々にしてそういうものだ、といつだったかルシウスが言っていた。


僕が六年生になっても、彼女は相変わらず現れた。


「セブ、あまり根を詰めないで」


彼女の視線を感じる。どれほど邪険に扱っても、彼女は僕を一人にしなかった。闇の魔術に関する分厚い本にのめり込み、丸まった背中を放置して、聞こえない振りを貫いても、彼女はずっと後ろにいた。


「今日はリリーと話せた?」


僕の反応を期待して、今度はそう問い掛けてくる。


「いいや」


彼女が好きな話題は相変わらずで、ページを捲る手が止まってしまう。


「セブは頑張ってるよ」

「まだだ、まだ足りない」


再びリリーの目に止まるには。


「私なら、セブを放っておかないのにな」

「図書室が夜遅くも開いていれば、君に会わずに済むのにな」


彼女からの返答はなかった。代わりにヒヤリと、肩にだけ寒気がした。


「まだいるつもりなら、暖炉の火を強くしておいてくれ」


彼女はいつも、僕が寝るまでそばにいた。何をしているんだか、羽根ペンの書く音も、本を捲る音もさせずに。寝ているのでは、とかけた声が無視されたことはない。


「ごめんね、セブ。できないんだ」

「君は七年生だろう?燃焼呪文の一つも唱えられないのか?薪を焼べることすらも?」


ため息をついた。そして振り返る。そうすれば、彼女が姿を消すであろうと分かっていた。

けれど彼女は、初めてそこに居続けた。


「私は何もしてあげられない。こんなにもセブのことが大切なのに。大切な……友達、なのに」


目の前の彼女を透して、ごうごうと燃える暖炉が見える。伸ばされた手はゾクリと不快な温度で僕に入った。けれど涙だけは、人と同じ感情で溢れる。


「本当はセブを抱きしめたかった。デコピンしたり、背を叩いてあげたい日もあった。でもできないの。呪文を唱えることも、薪をくべることすらも!……だって私は、

とっくの昔に……」

Special Thanks
you
(2019.5.30)


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