ただ抱いていたい。
ソファへ押し倒されても、呆れ顔でされるがままになってくれる彼を。形成を逆転させるチャンスを待つ隙のない目で、私を見つめてくる大切な人を。
けれどここは職場なのだ。休暇中でもない。たとえ今日の授業を終えていても、学校一嫌われ者の教師の部屋でさえ、生徒はやって来る。
響いたノックにため息をついたのはセブルスだった。私を押し退けようと肩に手を置き力を入れる。けれど私は悪戯心でそれに抗ってみた。
「おい、リリー」
彼が眉間をいつもの深さへ変えて囁いた。
「消灯までならいつでも教師を訪ねて来れるなんて、酷いと思いませんか?私たちだって自分の時間は必要なのに」
「苦情を言う相手が違う」
返事をするしない扉を開ける開けないの攻防を続けるうちに、ノックはピタリと止んだ。
二人してホッと息をついた瞬間、カチャリと扉の取っ手が揺れる音に固まった。すぐさまスネイプがリリーを抱き寄せる。ソファの背が二人を隠してくれることを期待して。蝶番の軋みに二人は息を潜めた。
「スネイプ先生、いらっしゃいますか?」
訪問者は室内にそれだけを投げ掛けると、一歩も足を踏み入れることなく扉を閉める。
改めて、二人はホッと息をついた。
「次からは大人しく離れたまえ。危うく見つかるところだ」
「鍵をかけ忘れたのは私の失態ではありませんよ」
「君が離れていれば鍵の必要はなかった」
「私は見つかっても良かったんです。あなたとの噂なら大歓迎。根も葉もあることですし」
リリーは密着したまま上目でスネイプを見つめながら、ニヤリと笑ってみせた。
「関係が明るみに出ることと、この体勢を生徒に目撃されることとは話が別だ。これでは私の威厳が損なわれる」
スネイプは片眉を上げて彼女を見つめ返した。ゆらゆらと彼女の視線が真意を探し、その笑みが照れながらも満足げなものへと変わる様子を見届ける。そして彼女に釣られた振りをして、スネイプもまた、口元を綻ばせた。
これから訪れるであろう、二人の
果てしない未来を想像して。
Special Thanks
you
(2019.5.23)