「赤いカーネーションと白いカーネーションで花束を1つ」
カラフルな商品の並ぶ店先で、モノクロの男が言った。その手には彼に似た幼い男の子の手がしっかりと握られている。二対の黒い瞳は揃って店員の動きを追っていた。より美しいものばかりが束ねられ、紅白入り交じるカーネーションが手際よくラッピングペーパーに包まれていく。
「ママ、絶対喜ぶね」
男の子が確信した笑みで言った。
「自信があるのか?」
「もちろん!パパは僕より先にママと出会ったのに、分からないの?」
「……ママは必ず喜ぶ」
男は花束よりも満開の笑顔を咲かせる妻を想像し、笑みを浮かべた。
リリーは家で家族の帰りを待っていた。珍しく二人きりで出掛けた夫と息子。行き先も告げずに出ていった彼らは、大して時間をかけずに帰って来た。
「ただいま!」
元気な息子の声が外出を中断した帰宅ではないことをリリーに教える。
「おかえり。随分と早かったね」
「うん。パパが早く帰ろうって」
「今にも雨が降り出す」
答えながら手を後ろで組むようにして歩くセブルスが、リリーの目に止まる。
「セブルス、何を持ってるの?」
彼は視線を息子へと落とした。二人は目配せをして同じ顔でニヤリと笑う。
「もう、二人して何?」
「先週、日本の母君へ贈り物をする際に君が話していただろう。向こうでの母の日を」
「あぁ、カーネーションのこと?」
「イギリスにいるからといってすべてをイギリス式にする必要はない」
セブルスが両手を前へと回した。両膝を床につけ、呼び寄せた息子と肩を並べる。二人で持った花束が妻であり母であるリリーへと差し出された。
彼女の表情が二人の想像を越えて綻んでいく。
「赤いカーネーションはこの子から、白いカーネーションは私から君へ」
原文 赤いカーネーションと白いカーネーションで花束を1つお願いします
Special Thanks
江利加様
(2019.5.11)