泣かせてしまった


「泣かせてしまった」


慌てたセブルスが頼りにしたのは、数少ない友人の一人だという私だった。廊下でルームメイトと談笑していた私は男の子の力で腕を引っ張られ、空き教室へと連れ込まれる。こんな行動力がどこに潜んでいたのやら。彼の世界で緊急事態が起きたことはすぐに察した。


「泣かせたって誰を?」

「リリーだ……」


彼女の涙が頭から離れないのだろう。セブルスまでもが泣きそうで、私も泣きたくなった。


「そう、分かった。あー、あのね、セブルス。あまり何度も掘り返したい話じゃないんだけど、私があなたを好きだって伝えた話は覚えてる?」

「……あぁ、もちろん」


すっかり抜け落ちていたような間を置いて、彼は首を縦に振った。


「良かった。じゃあ、私がセブルスを好きなこととあなたがリリーを思うことはとても似てて、ほとんど同じだって話は?」

「覚えてる」


彼はもじもじと指先を組みながら答えた。


「返事は求めてないし、今まで通りを望んだのも私だけど、あなたが今から話す事はおそらく私以外を選ぶべきだと思うの」

「…………」


彼は救いを打ち砕かれたかのように目を見開いていた。そして言葉を探して口をパクパクと開閉させる。


「エイブリーなら中庭で見たわ」

「彼とはこんな話、出来ない。君だけが、頼りで……リリー……」


彼は猫背気味の背で俯いていた。カーテンのように垂れる前髪の隙間から黒い瞳が私を捕らえる。実はとっても計算高い人間で、私のことも手のひらで軽く転がしてしまえるのでは。もしそうなら、私のこの気持ちも冷めてくれるかもしれないのに。

私は不器用で真っ直ぐな……リリーへ一直線な彼を好きになってしまったのだ。


「詳しく話して。どうせセブルスの勘違いに違いないから。リリーが泣くなんて想像できないし」


私は大袈裟にため息をついて見せた。分かりやすく表情を安堵へ変えるセブルスに、心配いらない、と背へ手を添えて口角を上げる。

そして私は、心で

泣きながら笑った。

Special Thanks
you
(2019.5.1)


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