妖女シスターズ
のヒット曲がラジオから流れ、私は音量を上げた。その手で隣のマグカップを掴み、コーヒーを一口。ふと視線を感じて横を向くと、事務机から私のいるソファへ鋭い視線が一対、投げられていた。
「集中力が切れる」
セブルスは羽根ペンの動きを止めて、恨めしそうな目と不機嫌な眉間。そんな顔をされたって、私には私の言い分がある。
「すぐに終わらせるからここで待てとおっしゃったのはあなたですよ。そろそろ私の痺れだって切れます」
「それは――」
モゴモゴと歯切れの悪い彼の様子は嫌いじゃない。嫌みや皮肉を封印し、私のために言葉を探すその間が愛しい。
「この曲、懐かしいですね」
ラジオから流れ始めた二曲目に、自然と私の身体がゆったり揺れる。彼は言葉の続き探しを中断して、曲に耳を傾けた。覚えがあると眉を上げて、その表情を和らげる。
「三校対抗試合の年のクリスマスか」
「結局あなたは踊ってくださらなかった」
「人の目がありすぎた」
「なら今は?」
私は軽やかに立ち上がり、彼の机を回り込む。手を差し出しお誘いのポーズで見つめれば、呆れたため息が彼から漏れた。
「曲が終わっちゃいます。ほら、早く」
黒の羽根ペンが、机に転がった。
事務机とローテーブルのちょっとした隙間で身体を揺らす。左右交互に体重をかけるだけのダンス。重なる影を映す暖炉が曲に合わせて爆ぜた。
セブルスに身を任せて、視覚を封じる。彼の肩に頭を預け、鋭くなった他の感覚すべてで彼を感じた。
「良いでしょう?クリスマスじゃなくたって、
たまにはこういう夜も」
Special Thanks
you
(2019.4.23)