「この手は何ですか?」
外ではふくろうが狩りを始める時間。二人きりの地下の一室で、不貞腐れたリリーがチェス盤を小突いて言った。取ってくれと言わんばかりの位置に白のナイトが移動するのを見届けて、スネイプが胸を張って腕を組む。
「対局相手へ助言する気はない。さて、君の番だ。尤も、君の取れる選択肢は少ないがな」
「少ないどころか一手だけでしょう」
リリーが黒のクイーンへ指示を出し、移動したばかりのナイトが砕かれる。破片が盤から転がり落ちて、頬杖を付いた彼女の肘で止まった。
「チェックメイト」
スネイプの薄い唇がニヤリと勝利に酔いしれた。
チェスを終えて二人は揃って寝室へと移動した。消費した集中力で欠伸を溢し、リリーがベッドへと腰かける。スネイプは彼女の横を通りすぎ、ベッドの奥側へと身を沈めた。
「明日は朝が早いんです」
「『チェスで勝った方が今夜の主導権を握る』君が言い出したことだ」
「ゴブストーン以外ならチャンスがあると思ったのに、チェスも強いなんて聞いてませんよ」
「君は詰めが甘いな」
スネイプがリリーの腕を引いた。コテンと抗うことなく倒れてきた身体にほくそ笑み、もっと近くへと引き寄せる。レタス食い虫のようにシーツを這って、彼女が身体を寄せた。
背後から包まれるように抱きしめられ、リリーから力が抜けていく。ヒヤリと首筋にスネイプの冷えた鉤鼻が当たった。それきり彼は動かなくなった。
「……寝るだけ、ですか?」
「明日は早いと君が言った」
くぐもった声がリリーの首筋に響く。スネイプは彼女の腰へ回していた左手をスルスルと引き上げさせた。
「チェスに勝ったのはセブルスですよ」
「無理矢理に組み敷く趣味はない。それがお望みとあらば、乗ってやっても良いが」
「因みに、その手はどうするおつもりで?」
彼の左手は彼女の太股を滑っていた。その曲線を楽しむようにゆっくりと辿る。窘めるように重なった彼女の手に、彼がくつくつと喉で笑った。
「どうもこうも、
意味なく君に触れてはダメなのか?」
Special Thanks
you
(2019.4.20)