「隣いいですか?」
降り注ぐ春の陽に似た柔らかな声が、スネイプの耳を擽った。彼は猫背を軋ませながら顔を上げ、熱中していた本を閉じる。同じ木陰に入ってきた女は悪戯な風に髪を抑えて腰を屈めた。遠くでは生徒を詰め込んだホグワーツ城が教師二人の束の間の休息を見守る。
「断る」
スネイプはキッパリと言い放った。
「ありがとうございます」
しかしリリーはさも許可を得たかのように芝へ腰を下ろすと、スネイプへと身を寄せた。その頬には余裕の笑み。彼の心の奥底を読み取ることなどクラップを手懐けるよりも容易い、と数多の人間を惹き付ける瞳で語る。
「癪ではあるが君にこの場所を譲ることにする」
「お気遣いどうも。ですがこのブナはハグリッドが三人いたって木陰に入れちゃいますよ」
彼女に同意するように、そばの湖で何かが跳ねた。
「どうせ用はないのだろう?」
「えぇ、まぁ。まさか校庭にいらっしゃるとは思わず、随分と地下を探してしまいました」
「用もない人間を探し回れるほど暇とは羨ましい」
「教授はお忙しいようですからね」
片眉を上げたリリーの目に映るのは、春の木陰に腰を据えて読書を楽しんでいた男だけ。スネイプが下げた口角に比例して、彼女はクスリと唇を引き上げた。
「この場所、お好きなんですか?」
「別に」
「まだ私たちが生徒だった頃から何度もここでお見かけするものですから、てっきり」
「君はここへ記憶力をひけらかしに来たのか?それとも私のストーカーか?」
リリーはすぐには答えなかった。スネイプの黒い瞳に見蕩れ、そばの芝を指先で弄る。
「本当は前からずっと貴方の事が好きなんです。って言ったらどうします?」
Special Thanks
you
(2019.4.13)