『今年の記念日には11本の薔薇を贈りますね』
『11本?』
『はい、11本』
「11」に一体どんな意味があるというのか。問おうとして、呑気に鼻唄を歌い出した彼女に口を噤んだ。どんなものであれ、何かしらの意味はある。
ならば、と当日は私からも11本の薔薇を用意した。数があれば見映えもするが、11本ではどうも心許ない。棘と一緒に葉も整えてスッキリと収まってしまった赤い薔薇を、薄緑の紙で包む。似合わない、彼女は欲しいと言ったわけではない、だのと邪魔をしてくる思考に蓋をして、そっとトレイの端へと添えた。
そしてまだゆっくりと寝息を立てているに違いない彼女のために、紅茶を蒸らす。銀メッキのトレイへカチャリカチャリとティーセットが加わっていく。『これじゃ飲んだ気にならない』と眉間を寄せる彼女の声が聞こえた気がして、ティーカップをマグカップへと替えた。
トントン、と控えめに寝室への扉を叩く。
「セブルス……?」
掠れた声。しかし起きていたことに眉を跳ね上げ扉を開けた。
「おはよう、リリー」
「おはようございます……それは?」
未だ枕にすがり付いていた彼女は気を抜けば閉じてしまいそうな目。それでもしっかりとトレイの行方を追っていた。静かにサイドテーブルへと置くと、彼女の瞳がようやく私へと向く。
「紅茶を淹れた。飲むだろう?ミルクをたっぷりと入れて」
「もちろんです」
ふわりと彼女が蕩ける。浮かぶその笑みに釣られ、私もヒクリと頬が動いた。身体を起こした彼女と向かい合うようにベッドへと腰掛ける。側頭の髪へと指を差し入れて、跳ねる寝癖を撫で付けてやった。
「でも、そうじゃなくて……」
揺れる彼女の瞳が、未だトレイに放置されたままの花束を指した。
「薔薇を贈り合うのも妙な話かとは思ったが……今日という日を、君と迎えることができたことへ感謝しよう」
花束を彼女へと手渡した。眠気を他所にしっかりと開いた目がその本数を辿る。
「まさか、用意してくださるなんて……本当に、強請ったわけでは……」
「分かっている。私が贈りたいと思った。それだけだ」
「ありがとうございます。私は幸せ者ですね」
「君だけではない。私も――」
ギシリとスプリングが軋み、彼女の身体がこちらへ傾く。寝起きのかさついた唇が頬へと触れて、薔薇の香りと共に離れていった。追うように彼女へ身を寄せて、その額へ仕返す。
はにかむ彼女がミルクティーの入ったマグカップを手に取り、ゆっくりと喉を潤した。
「それで?君が11本に拘っていた理由を教えてもらえるか?」
「あぁ、それは……
11本の薔薇の意味は「 最 愛 。 パ ー ト ナ ー に 感 謝 の 気 持 ち を 込 め て 。」なんですよ」
Special Thanks
you
(2019.4.11)