季節外れに咲き誇る、
ベッドサイドの切り花たち。病院の無機質な個室に彩りをと研修癒が飾って行った。繊細なガラス細工の花瓶に生けられ、外の雪など知らん顔。真っ直ぐに伸びた茎で大輪を支えるその姿に、リリーの背筋もピンと伸びる。
「リリー!」
何の前置きもなく開いた扉にリリーの肩が跳ねた。騒がしく入室してくる男を制し、自身の唇へと人差し指を当てる。男はぎゅっと薄い唇を引き結んだあと、うっすらと開けた隙間から長く息を吐き出した。
「いよいよというときは私に連絡をと言っただろう?それとも――」
「大丈夫。何も問題は起こらなかった。すべて順調に進んだから安心して、セブルス」
「ならば、何故?」
「あなたには仕事があるし、自分がどうなるか分からなかったんだもの。引く人もいるって聞くし……」
「私をそこらの愚か者共と一緒にするな」
「ごめんなさい、セブルス」
彼の長い指がするりとリリーの頬を撫でた。
「それで――」
チラチラとスネイプの瞳が彼女とその隣に並ぶ小さな小さなベッドとを行き来する。口元に手を当て楽しそうに小さく肩を揺らし始めた彼女へ眉を寄せ、彼はそばのベッドをそろりそろりと覗き込んだ。
「あなたの娘よ、パパ」
ベビーベッドの小さな存在に、彼に刻まれた眉間はいつの間にか消え去っていた。ふわふわと柔らかそうな赤毛は彼女、黒い瞳は自分だなどと考えながら、大人しく寝かされている赤ん坊をただ見つめる。
「ありがとう、リリー」
「どういたしまして。……まさかずっと見ているだけのつもり?抱いてあげて、セブルス」
「いや、しかし――」
「怖い?」
頷くことはなかったが否定もしないスネイプに、リリーが柔らかに微笑んだ。そしてベビーベッドからいとも容易く愛娘を持ち上げてみせる。パズルのピースが嵌まるようにピッタリと、彼女の腕に娘が抱かれた。
「あなたが来るまでにもう何度か母乳をあげたの。ほら、パパ」
「その呼び方は止めてくれ。全身がむず痒くなる……」
半端に上がっていたスネイプの腕が、ゆっくりと娘へ伸ばされる。感じたことのない緊張感に包まれて、確かな重みが移された。金縛り呪文にかけられたように固まる彼の腕で、赤ん坊が笑みを浮かべる。二人も釣られて頬を緩めた。
「この子の名前、花から貰うのはどう?ローズ、チューリップ、ダリア、たくさんあって悩むとこではあるけど」
「なら春を報せるものが良い」
スネイプが愛娘を見つめて言った。
「どうして?」
「……君の笑顔は私の心に春を呼ぶ。この子にもそんな笑顔を見せる人間になってほしい」
「なら決まり」
「いいのか?」
「もちろん。だってセブルスも、私に春を運んでくれるから。ぽかぽかして、心地好くて。周りをそんな気持ちにさせてくれる子になってほしい。あなたとこの子がいれば、
私の心は年中満開ね」
原文 私の心は年中満開です
Special Thanks
you
(2019.4.8)