一人にしないと、言っていた。
ねっとりとした言い回しで、嫌みな声で。それでもスネイプ先生は確かにそう言ったのに。私は暗い路地で一人ぼっち。苔むした高いレンガの壁に挟まれて、自分がどこから来たかも分からない。這い回る蜘蛛に怯え、遠くの靴音に怯え、自分の心臓の跳ね回る速度にも怯えて。
「先生……」
絞り出した声は私の周りに留まって掻き消えた。
「スネイプ先生……」
一緒にいるはずの人はどこかへ消えた。彼からすれば、消えたのは私なのだろうけど。
カツン、と一際大きく靴音が反響した。
「こんにちは、お嬢さん」
現れたのは、陰湿なこの路地には似合わない笑顔。私と二回り以上も歳の離れていそうな男だった。その目が不気味に歪み、私を隅々まで観察している。
「何かお困りかな?」
「いいえ、何も。連れがいます」
それでも男の歩みは止まらなかった。ズンズンと私に呼ばれでもしたかのように大股で、その気迫に圧されて後退りしてしまう。
「不安そうな目をしているよ。ほら、こっちへおいで」
私はチラリと背後に続く路地の先を見た。路地を抜けた先にあるのが一体どんな道なのか。どこに続いているかも分からない。前後を不安に挟まれて、それでも足を止めることだけはしなかった。
ふっと左右の圧迫感が消えた。
雨の含まない曇天が私を照らす。砂利を踏みつける音が増え、往来する人の気配を感じた。
「来い!」
後方から突如届いたその声に、身体は即座に反応した。
何人もいる黒いローブ姿の中からこちらへ駆けてくる一つを目指し、地を蹴りだす。ただ先生だけを見つめて、その胸へと飛び込んだ。
「勝手な行動をするからこうなる。次は手遅れかもしれん」
「ごめんなさい……」
先生は私を抱き止めた体勢のまま、半歩前へと身体を出した。その視線は私がいた方向をじっと睨み付けている。いつもの表情とは比べ物にならないくらいに、鋭利で、獰猛で。
ふつ、とそれが途切れたかと思うと、先生は私を見下ろし、大袈裟な動作で身を引いた。眉間のシワは健在で、忌々しいと私を見下ろすその黒い瞳は冷たい。けれど先生の顔が、何故か私にはキラキラと輝いて見えた。
それはまるでヒーローのように。
Special Thanks
you
(2019.4.8)